
まずはジギングの定義から
この10年で新たにジギングカテゴリーとして認識されるようになった「ジギング」は数多くある。青物メインでバーチカルジギングのハイピッチスタイルから始まったジギングの歴史は、スローピッチジャークやスロージギングと言われるテクニックにつながり、そこから派生したアカムツなどを狙う中深海ジギング、キンメやメヌケそしてアブラボウズを狙うスーパーディープジギング、そして近年大人気のイサキや根魚、マダイ、青物まですべての近海魚種がターゲットとなるスーパーライトジギングなど実に多種多様になった。
ご当地ジギングも数多く存在するようになり、マダイジギングやタチウオジギングは定番となり東京湾のシーバスジギングも冬から春にかけての風物詩である。その他にもマダラジギング、サクラマスジギング、ヒラメジギング、ホウボウジギング……。といった具合で各地で楽しまれている。
これらをライトやヘビー、スローピッチやハイピッチの括りの中で細分化するとなるとどうだろう。本当のヘビージギングや真のスーパーライトジギングの定義があるわけではないので、なかなか整理しづらい部分はあるが、あえてここで勝手に定義してみたい。それぞれのファクターがよりヘビーな部分が重なればヘビージギング、よりライトな部分が重なればライトジギングとしよう。下の表を参照してほしい。
【ライト】 ⇔ 【ヘビー】 | |
①狙う水深 | 10〜100m ⇔ 100〜200m ⇔ 200m以深 |
②ジグウエイト | 30〜100g ⇔ 100〜200g ⇔ 200g以上 |
③メインライン(PE) | 0.6〜1.5号⇔1.5〜2号⇔2〜3号⇔4号以上 |
④アクション | スローピッチ ⇔ ハイピッチ |
⑤魚のサイズ | 3㎏未満 ⇔ 3〜10㎏ ⇔ 10㎏以上 |
以上5つのファクターがジギングの定義として考えられる。もちろんもっと細分化することはできる。特にタックルバランスのところで言えばロッドやリールも当然関係してくるのだが、メインラインを考えることで必然的にロッドとリールのバランスは決まってくるのでここではあえてラインだけとした。
この5つで考えるとどうだろう? 最初は中深海ジギングが登場したときにはだいぶ混乱した。アングラーの中でもうまく整理ができずにタックルバランスが崩れてしまっている方さえいる。

例えば、遠州灘のアカムツ狙いでは水深200~300mを狙うため、ジグウエイトは250~300gがメインとなる。このウエイトだけを聞くと、PEは2号くらいかな? となるのだが、これは実際にまだ情報を入れていない初期のこと。ジグウエイトがそれだけヘビーなら、「そこそこの強度のラインでしょ!」と思ったわけだ。しかし、現在、アカムツジギングで使うメインラインはPE0.6号である。ジグは300gであってもメインラインはPE0.6号だ。もちろんそれに合わせてロッドもリールもライトな組み合わせになる。この遠州灘アカムツジギングを5つのジギング定義に当てはめてみると……。
- 狙う水深 【ヘビー】
- ジグウエイト 【ヘビー】
- メインライン 【ライト】
- アクション 【ライト】
- 魚のサイズ 【ライト】
ということになる。水深や使うジグはヘビーだが、その他はスーパーライトジギングとそん色ないくらいにライトなジギングなのである。面白いのは狙うターゲットが同じでもエリアが変われば定義も変わるということだ。同じアカムツジギングでも、新潟では水深も150mまでを狙うことが多く、ジグウエイトも200g前後で遠州灘よりもライトだ。しかし、同じエリア同じ釣り方でアカムツだけではなく10㎏オーバーのアラもバイトしてくるため、メインラインはPE1.5号前後で少しヘビーになる。
というわけで、ジギングの定義を勝手に考えてみたが、あながち間違ってはいないと思う。自分が好きなカテゴリーのジギングがどの程度ライトなのか? ヘビーなのか? を整理し、ホームフィールド以外に出かけた時に失敗しないためにも整理しておいて損は無いのではないだろうか。
ヘビージギングのシチュエーション

さて、前述した5つのジギング定義から考えると、究極にヘビーでビッグターゲットを狙うジギングは次のような条件が重なるジギングとなることをお分かりいただけるであろう。
- 狙う水深 200m以深 【ヘビー】
- ジグウエイト 200g以上 【ヘビー】
- メインライン 4号以上 【ヘビー】
- アクション ハイピッチ 【ヘビー】
- 魚のサイズ 10㎏以上 【ヘビー】
この条件をある程度満たすジギングはいくつかあるのでピンとくる方も多いのではないだろうか。まず筆頭に挙げられるのは南方エリアで狙うカンパチジギング。鹿児島から沖縄にかけての海域では水深200m以上をハイピッチ&スローピッチを交じえたアクションで狙い、ターゲットとなるカンパチのMAXは50㎏オーバー。もちろんPEは3号や4号となり紛れもないヘビージギングである。使うジグもショートからロング系までさまざまで、狙う水深と潮の状況で200~500g程度のウエイトを使い分ける。この釣りでは巨大なカンナギ(マハタの老成魚)も同時に狙うことができるため、ジギングマニアの間では人気が高いロマンあるカテゴリーと言えるだろう。
そして次に挙げられるのは、近年記録級の個体がキャッチされ始めているアブラボウズ。冬から春にかけて産卵のために浅場に来るタイミングで狙うのだが、それでも水深は600~800mという未知の領域とも言うべきフィールド。200gのジグが可愛く見えてしまう1㎏前後のジグを深海まで沈めて狙っていく。アクションこそスローだが、スーパーディープまで伸びるラインに掛かる潮の抵抗と究極のヘビーウエイトジグを操るだけで相当ヘビーであることはすぐに分かるはずだ。魚のサイズも30㎏、40㎏は普通であり60㎏や80㎏という怪物級もキャッチされている。ヒット後の道のりも600m以上あることから巨大アブラボウズをキャッチするには基礎体力も当然に必要だ。そう簡単にはチャレンジすることができないジギングであるがこちらも紛れもないヘビージギングである。
最後に挙げるのがキハダ&ビンチョウジギング。30~50㎏前後のキハダと10~30㎏のビンチョウマグロが三重県の志摩沖で狙える。水深は100m前後までを攻めるが、爆風にドテラ流しスタイルで潮流も速いことからジグウエイトは300~500gを使う。相手は持久力のあるマグロ族だけに特にキハダをヒットさせた場合は持久戦を覚悟しなければならない。水温が真夏に比べて低いことから、この時期のキハダはそこまで暴力的なファイトではないが、キハダはキハダである。1時間以上のファイトができるよう身体的にも準備しておこう。正にヘビージギングである。
この他にもヘビージギングと定義できるターゲットはヒラマサやブリ、10㎏オーバーのタラなどいろいろあるが、今回はより身近で比較的イージーな近海のビッグターゲットとしてビンチョウマグロ(トンボマグロ)を狙うジギング、通称トンジギについて紹介しよう。
トンジギは基本、ヘビータックル
トンジギで使うタックルは釣れているサイズとキハダの有無によるところが大きい。特に前述した志摩沖では50㎏オーバーのキハダがヒットしてくることもおり、ビンチョウマグロも20㎏を超えるサイズが多い。ただし、ビンチョウマグロについてはスピード、パワー、持久力、どれを取っても同サイズのキハダよりも劣る。そう、実はビンチョウマグロはキャッチしやすいターゲットでもあるのだ。近海のビッグターゲットとしておすすめする理由はここにあり、比較的手軽に挑戦できて10㎏オーバーが狙えるのだ。遠州灘でもトンジギは流行しており、12~4月くらいまでがベストシーズンとなる。志摩沖よりも比較的潮の流れが緩い場面が多く、よりライトなタックルでも挑戦できるので近海青物のジギングタックルを流用することも可能だ。

ここで具体的に使用するタックルを考察してみたい。前述した状況によりタックルは変更していくが、まずはキハダが存在している場合はそれに合わせたタックルとなる。PEは最低でも3号、通常は4号を使い釣れている。サイズによっては5号までを選択肢とする。リーダーはナイロン20号程度。ロッドやリールはこのラインのバランスに合わせて選び、フックやリングなどは絶対に壊れない強靭なものを選ぶ。これがまずは1セット目だ。

2セット目はトンジギのメインタックルで、20㎏オーバーのビンチョウマグロがヒットしても大丈夫かつ、万一キハダがきてもギリギリ何とかなるというタックルセッティング。メインラインとなるPEは3号でリーダーはフロロ14~16号をセレクトする。

そして3セット目はキハダが存在せず、ビンチョウマグロのサイズも10㎏前後までという状況では近海青物ジギングのタックルがそのまま流用可だ。PE2号にリーダーはフロロ12~14号。PEとリーダーはPRノットもしくはSCノットで結束。リーダーとジグはソリッドリングを最強のチューブノットで結束する。
使用するジグのカラーは、マグロ類を狙う場合フルシルバーとゼブラグローシルバーを基本にセレクト。潮の澄み具合や狙う水深、時間帯によってグローの有無でカラーを変更し使い分ける。具体的には水中が暗ければグロー入り、明るければグロー無しを基本とする。
別記のタックルが近海のビッグターゲットを狙う上で状況に合わせたタックルセレクトの一例であるが、ここでタックルについてこだわっておくべきことが一つ。今回のテーマである近海のビッグターゲットとして、キハダ&ビンチョウに焦点を当てているが、時にメモリアル級のサイズがヒットすることも珍しくない。それこそ一生に一度のサイズが実際にヒットするチャンスは十分にあり得る。そこでタックルには細部にまでこだわっておかないとトラブルの原因を作ってしまうのでこの釣りに一切の妥協は厳禁である。信頼できるメーカーの信頼できる製品を選ぶことが非常に重要である。極限のファイトでは最終的にはタックルの基本性能が結果を左右する。アングラーのスキルやテクニックも大切だが、タックルの性能を最大限引き出すためにも少しの隙も作らないことが重要である。それはスプリットリングやライン結束(ノット)等の細部にまで注意を払うことも含まれる。とにかくすべてを完璧にして初めてキャッチできるのがビッグターゲットだということを頭に置いておこう。
ジグについて

トンジギで使用するジグは、REALSのSpec-ZEROとP.J.RIDEだ。どちらもスローピッチ系のジグであるが、その特徴としてはバイトを誘発する独特のフォールにある。キハダもビンチョウもフォールでのアタックが非常に多く、ドテラ流しで速い潮流にも対応しながらジグを動かすことで体力的にもその後のファイトを考慮すると、一日中ハイピッチでは体力的にキツイ。よってスローピッチスタイルのフォール重視としてタックルからセッティングすることでキャッチ率を高める。
この2種類のジグはどちらもステンレスプレートと鉛のハイブリッド構造で、一般的なジグとはまったく異なるコンセプトでデザインされている。Spec-ZEROはセンターバランスでありながらそのセンター部分にはウエイトがほとんど無いという逆転の発想の次世代センターバランスジグであり、ディープエリアでもジグの前後と中央のウエイト差で必ず横向きアクションが出るように設計されている。フリーフォールさせることでスライド幅の大きいユラユラとしたシーソーフォールと呼ばれるアクションでバイトを誘発。誰が使っても同じように動かすことができるのも特徴である。P.J.RIDEは極薄ステンレスプレートがウイング形状となっており、フォールする際にそのウイングで水を掴みバイブレーションを発生させながらフォールすることが可能。大きなアピール力でターゲットの口を使わせることができるため、パイロットジグとして真っ先にP.J.RIDEを投入している。どちらも実績があるジグなのでぜひ試していただきたい。
アクションについて
キハダ&トンジギのアクションはそれこそ状況次第といったところであるが、大きく分けて誘い上げてきてジグのキレや巻きで食わせるパターンと、誘ってからのフォールで食わせるパターンの二つがメインとなるだろう。基本はワンピッチジャークと呼ばれるロッドを1回シャクった後にリールを1回転させるアクションになるが、どちらかというとフォールでのバイトが多いためできるだけフォールを入れる回数やフォールさせる落差をしっかりと考えてアクションさせることが大切である。極端なことを言えばアップアクションが上手くできなくてもジグをしっかりとフリーフォールさせることができれば食ってくる可能性は十分にあるのだ。完全にジグの性能に頼ってもよい。よってロングフォールジャークなども有効な場面が多々あるので試してみてほしい。
アクションについてはもっとマニアックに、掘り下げて書いた方が面白いとは思うのだが、特にビンチョウマグロについてはイージーにジグを食ってくる。カンパチやヒラマサなどのようにキッチリとしたアクションで緻密に動かす必要はなく、イメージとしてはサバを釣るときに近い。それだけジグへの反応は良く、フォールが大好きなのだ。だが、ファクターでもっと重要なことがある。それはアクションさせるジグの「レンジ」、つまりタナ(水深)である。これが間違いなくこのジギングで最も重要なことであり、絶対に必要なスキルなのだ。

トンジギは基本的には船を風や潮と同調させて流すドテラ流しがメインとなる。ジグを足元に落とすと通常はどんどんジグが自分の前方へ離れて行き、ラインが斜めに放出されるはずだ。そう、真下に落とすバーチカルジギングであればラインのカラーなどでどのレンジを攻めているのか分かりやすいのだが、ドテラ流しでは斜めにラインが出ていくためジグの到達レンジが正確には分かりにくい。しかしながら、船長の指示ダナは絶対であり上手くそのレンジにジグが到達していればヒットの確率は相当に高くなる。そう、このジギングで最も大切なのはこの「レンジ」なのだ。

ロッドティップに対してどのくらいの角度でラインが放出されればどのレンジにジグが到達しているのか、瞬時に判断できるスキルが必要不可欠となる。それにはロッドティップから放出されているライン角度をできるだけ正確に把握することが非常に重要だ。これはぜひ試していただきたいことなのだが、100円均一などで売っている発泡スチロール素材のカラーボードや厚紙などの加工しやすい素材を使って、数パターンの三角形を作って持参してみよう。角度を45度のもの、60度、75度と15度刻みで3種類も作っていけば十分だろう。仲間と協力して実際にティップから放出されているライン角度をこの三角形を使って計測してみてほしい。一度計測すれば感覚的に覚えることができると思うので、この角度なら何度だな、というように把握できるようになるのがベストだ。
あとは小学校時代の算数を思い出し、船長の指示ダナとライン角度で計算して実際何mのラインを出したら指示ダナに到達するのかを計算できるようにしておこう。地味だが「だいたい」でやっているアングラーとは釣果の差が倍以上になることは確実である。細かいテクニックやジグの性能を語るよりも、この正確なレンジ把握がトンジギの最大のキモであるのだ。
アクション時の心がけ
最後に、ジギングに限らずオフショアの釣りは何かと体力を使う動作が多いため、アクションのさせ方でなるべく疲れない方法をいくつか紹介しよう。
ベイトタックルのスローピッチスタイルを基準に解説するが、ロッドを持つポジションに気をつけよう。リールは手のひら全体で包み込むように持つこと、そしてロッドのグリップエンドを肘に当てるスタイルにする。最初はこの肘当てスタイルに違和感がある方も多いはずで、なかなかフィットさせるのも慣れるまでは難しい。しかし、ジグの重さからくる負荷を肘に当てない場合は手首で受け止めることになり痛める原因となる。それが肘にロッドを当てることでジグの負荷がロッド側面から肘付近に分散されて非常に楽になる。これができるのとできないのでは疲労感がまったく違うためぜひ参考にしていただきたい。
それから、もう一つ大切なのが体の向きだ。ロッドを持ってそのまま正面に構えると疲れるポジションだと思っていい。重いジグをシャクるのに正面で立つとやはり負荷を逃しにくい。肩幅に開いた足をどちらか一方を後ろに引いて半身になってみよう。こうするだけで体が安定して負荷を逃がしやすくなる。ロッドアクションも思った以上にスムーズになるはずだ。