春は低水温を避けて深場に移動していたアオリイカが、産卵のために岸近くに寄ってくるシーズンです。水温が15℃を超えるころから浅場への移動を意識し始めます。
17℃が産卵に伴う行動をとるようになる目安の海水温といわれています。
産卵を終えたアオリイカは、雄雌ともに死んでしまう個体が多いようですが、産卵は1個体1回というわけではなく、適正水温となる3~7月の間で数回繰り返されるのが標準的です。
ペアリングや産卵の最中には捕食行動を優先することはないようですが、その間は栄養補給のため、昼夜を問わず活発にエサをとっています。
春の狙いは藻場

この季節にアオリイカのポイントを絞り込む目安となるのは、産卵礁となる海草の存在。とくに目安にしたいのはアマモというイネに似た細長い葉をもつ1mほどの長さまで成長する海草です。
おもに水深1~数mの砂泥質の海底に生息し、これが群生した藻場と呼ばれる場所は、潮流を和らげ外敵からの隠れ場所にもなるうえ、水質の浄化能力も高いため、アオリイカの産卵のみならず多くの魚類の産卵場所にもなっています。
日中、偏光グラスをかけていれば、堤防などの高い位置から黒っぽい塊のように確認できる場所もあります。
同じように藻場として意識されるものに、ホンダワラなどの藻類がありますが、アマモのように地下茎でしっかり海底とつながっている海草とは異なり、根が海底に固着する力が弱く流れ藻になりやすかったり、光合成の機能がないため酸素の供給量が少ないなど、アマモに比べると、条件的に見劣りする要素が多いです。

エギングのフィールドとしては、複雑な形状のホンダワラが海面に漂っている場所よりも、根掛かりの少ないまっすぐな葉が生えているアマモ場のほうが釣りをしやすいのは確実です。
ただし、水質悪化で良質なアマモの群落は極端に少なくなり環境問題として取り上げられている地域もあります。
さらに、エギをシャクる操作がアマモを刈り取ってしまい一帯のアマモが全滅したという話も聞かれます。
エギを回収したときアマモが引っ掛かってくる場合は、チャンスと考えることもできますが、フォールさせる深さ、シャクリの強さに十分に注意し、貴重なアマモを傷めないような配慮をすることも必要です。
産卵場所としてばかりではなく、魚礁や水質浄化のための天然のフィルターとしての役割は、一部の釣り人を楽しませるだけの釣り場としての役割よりは、はるかに重要ものという認識は忘れないようにしたいです。
アクションはボトムでスローに

活発にエサを追う小型のアオリイカを狙う秋のシーズンに対して、春は成長のピークを迎えた大物がターゲットとなります。
生まれてから約1年、この大きさまで成長できるイカは、外敵から身を守る警戒心と、自らの成長を助けるための狩りの能力を兼ね備えた、ごく少数のエリートともいえます。
エギングの激戦区で生まれた個体ならば、エギに対する警戒心が薄いものほど早い時期に釣りあげられてしまうので、成長するまで釣られずに残るアオリイカは、もともとエギに反応しにくい性格か、エギにスレまくっていると考えてもよいでしょう。
どちらにしても、好奇心と食欲旺盛な秋の小イカのように、簡単にエギについてきてくれるわけではありません。

このようなイカを攻略するためのセオリーとして、一番手堅いのが狩りと安全のためにイカが身を隠せる障害物が多いエリアで、エギをナチュラルに操作し警戒心を刺激しないで捕食スイッチを入れることです。
アオリイカは大型になるほどベイトの回遊が多い一等地に陣取り、効率よく狩りをします。ベイトを追い回すより次のベイトの回遊を待ったほうが効率が良いので、行動範囲はかなり狭くなる傾向があります。
つまり大型のエサ場では、エギを無警戒なベイトのように操作するのがのぞましいです。
そのとき、アオリイカは安全なストラクチャーの側を通り道にしているベイトを待ち伏せしている可能性が高いので、エギはストラクチャーによりタイトに、可能な限りベイトの回遊コース近くを通すようにしましょう。

誘いをかけるための強めのアクションは、イカが待ち伏せしているポイントの手前まで。ポイントの近くでは、エギを抱かせるためのタイミングに重点を置いたアクションでスローな誘いをかけるようにしましょう。
まずはステイ。これは文字通りエギを止めておくこと。
ボトムから少し浮かせた状態で止めておくのが理想ですが、これは無理なので、ラインが受ける潮流の抵抗などを利用して、より長くポイントのすぐ上に留まらせます、もしくはエギを着底させて止めておくことを意識しましょう。
次にフォール。フォールはエギが若干の頭下がりで、大きく姿勢が変化しないまま、ゆっくりと沈んでいくのが理想的です。
このときにイカのバイトが最も多く、フォールの速度と姿勢を上手くコントロールするのが、釣果の良し悪しを左右するといっても過言ではありません。
春は、イカのサイズが大きく、遠く、深く、潮流が速いポイントを攻める機会が多いため、サイズが大きく沈みの速いエギの出番が多いですが、アクションはピンポイントでスローなものが望ましいです。

そこで覚えておきたいのがテンションフォールです。エギングの誘いで常用されるカーブフォールは、ラインを張ってロッドやリールを操作せずにフォールさせるため、エギが沈むにつれて、手前に大きく移動します。
広範囲を探るのに適したメソッドではありますがピンポイント攻略には不向きです。
対してテンションフォールは、エギの姿勢を理想的な状態に保ったまま、カーブフォールよりやや垂直にスローフォールさせるように操作するします。
広範囲を探ることはできませんがピンポイントをフォローするには最適なメソッドです。

操作の基本は、エギがあまり手前に移動しないように、エギを沈めた分ロッド操作でラインを送り込みながらフォールさせます。
ラインテンションを張りすぎず緩めすぎずを保つように操作するため、フリーフォールよりやや手前に落ちます。
ラインの送り込みが少ないと、カーブフォールになりエギが手前に寄ってしまいます。
逆にラインを送り過ぎるとエギの頭が下がってイカがバイトしやすい姿勢を保てないばかりか、フォールの速度が速くなるのでスローな誘いができなくなります。
フォールの姿勢を最適な状態でキープするためにも、ラインの送り込みは安定したものでなければなりません。
上手く操作するにはコツが必要ですが、スキルアップのために覚えておいて損はないので時間がかかってもマスターしておきたいテクニックです。
操作のイメージが掴めるまでは、日中にフォールの姿勢を目で確認しながら練習しておきましょう。
良型を視野に入れたタックルセレクト

大型、それも2㎏アップを狙うのが、この時期のエギングの醍醐味です。
遠征をしなくても普段からアオリイカが狙える場所なら、この時期このサイズに出会えることも珍しいことではありません。
さらに、エギングは基本の操作が簡単なため、キャストさえできれば、たとえビギナーであってもモンスタークラスとのファイトが楽しめる可能性は十分にあります。
ただし、ファイトの内容は秋シーズンの小型とは別物と思っておいたほうがよいでしょう。特に走り出した時のトルクは強烈で、無理の利かないライン、特に細すぎるリーダーの使用は避けたいところです。
季節柄、藻場に潜られないよう多少強引なやり取りが必要になる可能性は高く、沈み根やテトラでのラインブレイクも注意しなければなりません。
海草に引っかけた場合でも、強いラインなら回収できる確率も上がります。
この時期に使用するロッドを選ぶなら、長めのものを選んでおくと良いでしょう。前述のように藻場やストラクチャーを避けながらのやり取りは、やはりロングロッドに分があります。
春は遠投性、遠投したルアーにアクションを与えるのにもストロークが大きいほうが扱いやすいく、3.5号をメインに4号のエギの使用に耐える強さを持ったものが望ましいです。
また、あえてブランクスのパワーがあるショートロッドを使用し、取り回しのよさを利用し、テンポ良く探る作戦もあります。
コントロール重視のキャストと、激しいアクションを繰り返す操作性重視のショートロッドは、どちらかといえば夏から秋向きです。
使用するエギ

大きいイカには大きいエギを使うのはセオリーのひとつです。この時期なら3.5~4号のエギを中心にゲームを組み立てるのをおすすめします。
しかし、プレッシャーの高い場所や、低水温などが原因でイカの活性が上がりきれないときは、シルエットの小さいエギが有効なこともあります。
ただし、小さなエギは飛距離が足りなかったり沈みが遅かったりと、効率良くポイントを狙えないこともあるので、こんなときは潮流に乗せてエギを沖まで運んだり、自重があるディープタイプのエギを使うことで弱点をカバーしましょう。
とはいえ、小さなエギはカンナも小さく、身切れやカンナ外れでのバラシの可能性も出てくるので、大物狙いには不向きな点もあることを知っておきましょう。
カラーのローテーションは、それぞれの好みで構いませんが、初心者や初めてのポイントではオレンジやピンクの視認性の良いものから使うと、アクションやフォール、潮流の影響を判断しやすいです。
ここぞという場所にエギを通してもアタリがないようなときを、カラーチェンジのタイミングの目安として、イカの反応がないときに同じエギを使い続けないようにすることも大切です。