成長を支える食欲と警戒心
アオリイカの寿命は約1年。それでも3㎏を超えるような大物を見かけることがあります。
このサイズになると外敵に襲われることはほとんどなくなり、沿岸部では食物連鎖のピラミッドの上部に位置します。
しかし、小さいときは捕らえやすく他のフィッシュイーターにとって栄養価が高い格好のエサでもあるため、早く成長をするということはアオリイカにとって文字どおり死活問題ともいえます。
そのためか、成長速度は驚くべきもので、それを支える食欲は旺盛です。生後1日足らずで動く物を攻撃し捕食行動をとるようになります。

小さなときは自分の体長ほどの相手に襲いかかることも多いですが、自分の胴長を超えるような獲物にアタックして返り討ちにあうことも。
ある程度成長した個体は、よほど空腹でもない限りそのような攻撃を仕掛けることは少ないです。
水槽実験では安心できる大きさのエサがない場合、餓死してしまうことさえあるようです。成長しても影が横切るだけでスミを吐くような警戒心の強さも見られます。
しかし、その旺盛な食欲のためエサになりそうなものへの執着は強く、食べられそうなものがあれば、とりあえず触腕を伸ばし確かめてみるという行動を頻繁にとることも知られています。

たとえばエギのフォールに対する反応が良い例で、自然界において無抵抗なエサがゆっくり落ちてくるという状況はめったにありません。
いわば不自然な状況であるにもかかわらず、エギに興味を示します。というよりも手を出さずにいられないのがアオリイカの根本的習性といえるでしょう。
激しい攻撃本能

こうした捕食行動以外にエギを抱く理由として考えられるのが、邪魔な物に対する攻撃です。
特に交接期のオスはどう猛で、自分のテリトリーに入ろうとする邪魔者には威嚇し、容赦ない攻撃を仕掛けます。
メスを争うオス同士の喧嘩は壮絶で、ときに相手に抱きつき足を噛み切ってしまうほどの激しさをみせます。
他のオス以外の外敵に対しても激しい攻撃を仕掛けるのは想像にかたくないですが、いくらどう猛とはいえ、周りにいるもの全てに対して攻撃を仕掛けるということではありません。

勝てそうにない相手の場合は逃げますし、追い払うほどの脅威を感じない場合もあるでしょう。その判断基準は、相手の大きさが関係しているのではないかと思われます。
エギングをベースに考えるならば、あまり小さなエギではわざわざ激しい攻撃を仕掛けて追い払わなければいけないほどの脅威を感じてくれません。
むしろ、自分がリスクを負っても激しい攻撃をして追い払わなければいけない敵だと認めさせるには、ある程度の大きさが必要になってきます。
もちろん大きければよいということではありません。そのときのアオリイカの活性にもよりますが、春先に大きなエギを使用した方が効率良く釣果を伸ばせる理由はこんなところにもあるようです。
カラーチェンジだけではなく号数のローテーションも効果的だと言えるでしょう。
発達した目

アオリイカに限らず、イカ類がエサや敵を確認するためにもっとも重要な働きをするのは大きな目です。
下等な無脊椎動物には珍しく目から得た情報を重要視しているのは、ガラス瓶に入ったエサをイカの前に置く実験からも見てとれます。
この状態では、イカがエサの匂いを感じることはできないし、触ることもできないのですが、何度も触腕を伸ばし、エサを捕獲しようとします。
目から入ってくる情報をいかに重視しているかが分かる実験です。

瞼がないイカは、極端な明るさを嫌う傾向がありますが、目から情報を得る上で、ある程度の明るさも必要になってきます。
真っ暗な新月よりも適度な明るさがある満月の方が、イカ漁には適しているし、常夜灯周りに釣果が集中するのも、単にベイトが豊富だからという理由だけではないようです。
また、生物が出す微細な光を捕食活動の目印にしているようで、イカを主食にしているカズハゴンドウというイルカの仲間は、自らの唇を発光させてイカを誘っているそうです。
自然界の神秘ですが、ケイムラ加工や夜光仕様のエギが、非常に理にかなったものだといえるでしょう。
好奇心と警戒心のバランス

イカは発見した対象物に、興味と警戒心を持ちながら近づいていきます。
興味とは、それが食べられるかどうかということで、警戒心とは、襲って大丈夫な相手か、獲物に感づかれて逃げられないか、そして狩りをするときの自身の無防備な状態を警戒してのもの。
このバランスを命がけでとりながら獲物を襲うので、慎重に近づき、一気に襲い掛かり、獲物の息の根を止めて、安全な場所まで運んでから食べるという一連の行動につながっています。
好奇心を刺激する

アオリイカにエギを抱かせる方法は、警戒心を刺激しないようにするだけではありません。ときとして、警戒心を忘れるほど好奇心を刺激させることが有効な手段となります。
アオリイカがエギに興味を持って近づいてきたとき、エギから少し離れたところで止まって、エギを確認するタイミングがあります。その確認が終わる前にエギをアオリイカから少し遠ざけてみます。
少し距離をとってエギを止めておくと、アオリイカは再びエギに寄ってきます。
このように、わざと移動させては止めるといった動きを繰り返し、場合によっては、いったん回収して、また投入を繰り返す。こうしていると、アオリイカがじれてくるのが分かります。

確認もそこそこにエギを襲ってくるようになるまでアオリイカをじらし続け、最後に少しスキをみせるようにエギの動きを止めておけば一気にエギを抱きにきてくれます。
興奮したアオリイカは、激しく体色を変えながらエギを追い回し、止まってエギを確認する距離は徐々に縮まっていきます。
ついには足下だろうが表層だろうが、触腕が届く間合いであれば、お構いなしにエギに襲いかかってきます。
もちろんいつも上手くいく作戦ではありませんが、この駆け引きのタイミングをモノにすることで、エギングの引き出しが格段に増えるに違いありません。