秋の数釣りに対して、春は大物といわれるエギング。夢の3㎏オーバーも狙え、エギングの醍醐味を最大限に味わえるシーズンでもあります。
しかし、この時期のエギングは秋の小イカ狙いとはかなり違ったものになります。
越冬のため外洋で過ごし、産卵できるまでに成長して沿岸部に戻ってきたモンスターアオリを攻略するためには、それなりの知識とテクニックが必要なのです。
他シーズンとの違い
①釣り場の違い

堤防際や地磯に群れていた秋口のアオリイカと違い、春は大きな群れは作りません。大抵は目視できないような距離や深さを確保しながら、大きな岩などの障害物周りを拠点に定期的に回遊します。
拠点になるのは、ペアリング(産卵)行動をとりやすい場所と考えてよいでしょう。産卵に欠かせない藻が生えた大きな沈み瀬で、横の広さよりも高さが重視されます。
高さは1m以上の岩が数個集まり、その先が急深になっているようなブレイクがらみの藻場をイメージしながら釣り場を探してみましょう。もちろんテトラ周辺も見逃せません。
②タックルの違い

狙うイカのサイズの違いで大きく異なります。使うエギも3.5〜4号が標準で、飛距離も重要となりやすいです。
複雑な地形と冬から春にかけて発育する藻場を狙うため、エギのロストを避ける意味でも強いロッドとラインが求められます。
③誘いの違い

イカの学習能力について詳しいことは解明されていませんが、秋口の小イカのように簡単にエギを追ってくれないのは事実です。
反面、一度スイッチが入ると、驚くようなスピードで追い、獰猛にエギにアタックしてくるのも春イカに見られる行動パターンの一つです。
たくさんいた小イカが成長する過程で、警戒心が薄かったり、狩りが下手だったりする個体が淘汰されるように、簡単にエギに寄ってくるようなイカは早いうちに釣り上げられ、エギへの警戒心が強い、もしくは興味が薄いイカが残っているためだということも考えられます。

どちらにしても、春先はイカのそばにエギを落として反応を見ながらアクションを入れるような釣り方ができるチャンスは少ないので、見えないポイントにエギを送り込み、イメージ通りのアクションで誘い、トラブルを避け、アタリを感じてフッキングさせることが望まれます。
そしてこれをクリアするためには、アングラーが思い通りに操作できる完成度の高いエギが必要になってきます。春先のエギ選びがシビアになるのはそのためです。
そのとき、誘いは自然である必要はありません。エギのカラーがそうであるように、自然界ではありえないような誘いもあります。
要はイカが追ってくるアクションを演出できるか、興味を示すカラーを選択できるかがキモなのです。

イカが夢中になるエギのアクション
キャスト→フォール→着底→シャクリ→フォールという一連のエギングの流れを的確にこなすのが大前提。
しかし、春先の警戒心が強いイカを夢中にさせるには、アングラーの攻めのバリエーションは多いに越したことはありません。
ここでは基本のアクションに加えて知っておくべきエギングのアクション+αを紹介します。
①水中での水平移動

フォールの途中でロッドを立てたり、カーブフォール中にロッドをサビいたりと、フォール中のエギに掛かるテンションを強めにすることでエギは水平に移動します。
キモは無警戒のベイトがボーっと泳いでいるような、まったりとしたアクションに仕上げること。
移動中の姿勢、水平移動に移行する瞬間の姿勢が滑らかになるようソフトな操作が望まれます。食わせどころは水平移動で見せた後のスローフォールです。
②移動を抑えたターン、ショートピッチの首振りターン

エギングのアピールはダートが基本。好みのエギでダート操作ができるようになっておきましょう。
ショートピッチジャークでは小さく首を振りながらキビキビとしたアクションでエリアのイカを夢中にさせ、前方向への移動を極力減らした大きめのダートで狙ったポイントでしつこく誘います。
このアクションは、アングラーの技量も問われますが、使うエギの性能やアングラーとの相性もあります。
好みのエギや使いやすいエギの評価は人によって違うので、基本性能の整ったエギを見つけたら、それを使いこんでみることです。
③視界から消えるようなジャンピングアクション

アオリイカが見切ったエギをもう一度抱かせるには、キャストし直すのが効率的。これはサイトエギングでは当たり前のテクニックです。
しかしキャストしているとアタッてこないイカの反応を確認することは難しいし、そもそもイカがいるかどうかも分からない場所に、いちいちキャストし直していたのでは効率が悪すぎます。
そこで必要なのが目の前のエギが、一瞬で消えてしまうような跳ね上がりアクション。
これは跳ね上がるのを見せるというよりはエギを見失わさせるのが目的です。
跳ね上げアクションはこれまでの痕跡をリセットして、新たなアプローチを開始するきっかけなので、アングラーの操作をキッチリ反映してくれるエギを使いましょう。
④ボトムに向かう挙動の変化

従来、エギングでのフォールとは食わせのタイミングであり「待ち」の間でもあります。
しかし現実はジャークで追ってきたイカがフォール中にエギを見切るのは日常茶飯事。そんな状況でもさらに追わせて抱かせることを意識しておきたいです。
実践ではフォール中の姿勢の変化がモノをいいます。
カーブフォールやテンションフォールから急降下してボトムに向かう挙動の変化は、危険を感じたベイトが海底のストラクチャーに逃げ込むような、弱ったベイトが力尽きる瞬間のような挙動としてイカが興味を引くのです。
イカが夢中になるエギのカラー

アクション同様、カラーについてもこの色という確立されたものがあるわけではありません。そのため、いわゆる当たりカラーは現場で探すのが鉄則です。
同じ色でも水色、天候、昼夜で色の見え方は千差万別。人間のようにそれを意識して色を理解するのではなく、その時々の見え方によって食いたいのか食いたくないのかが変わってきます。
それはイカにとって命にかかわる重要な選択になるので、ポイント選びやアクションの付け方ではカバーできない領域ともいえるでしょう。
結果、人間と同じではないため、色選びを軽視するわけにはいかないのです。
カラーの選び方

イカの目がどのように見えるかは別としても、大まかな傾向を理解することでアタリカラーを絞りこむことは可能です。
その考え方の基本になるのがナチュラルとアピール。ナチュラルというのは自然界にある色。ベイトとなる魚や甲殻類に近い色だと考えてもよいです。
アピールカラーは自然界ではあまり見かけない色。景色の中で目立ちやすい色と考えておけばよいでしょう。
エギのカラーを選択するうえで、すべての色を順番に試していたのでは時間がいくらあっても足りません。
ましてや光と影、晴れと曇り、昼間と夕暮れで見え方が変わることを考慮すればそんなことをしても時間の無駄なのは理解に難くありません。

そこで、人間の目、アングラーの感覚でナチュラルとアピールというカテゴリーで割り切って、ナチュラルで反応がないときはアピールカラーを試すというように、対照的な傾向のカラーを選ぶことから始めるとよいでしょう。
極論をいえばアピールとナチュラルの2色を揃えれば、とっかかりはなんとかなるということです。
さらに、追ってくるけど抱いてこない、釣れていたのに追いが悪くなったというときに、同じカテゴリーの中から、別のカラーを選択するといったルールを決めることで、カラーの絞り込みが戦略、戦術となって釣果をアップさせてくれるでしょう。
やり取りと心構え

イカの引きは2㎏クラスになると全く別物。タックルの性能にこだわる理由も、信頼できるエギを選ぶ理由もここで初めて実感できるはずです。
行き当たりばったりでエギをキャストして取り込めるのは、せいぜい1㎏オーバーまで。
1回でも良型とのやり取りを経験すれば、掛かったイカをどう誘導して、どこでランデイングするのかを考えるようになるはずです。
もし不幸にして何も考えずにアプローチやタックルを選択しているときにこんな大物と出会ってしまったら、そのときは祈るしかありません。
しかし、たとえ獲物を手にすることができたとしても、それは獲ったのではなく取れた1杯に過ぎません。心構えで取れる1杯もあることを常に意識しておくのがアングラーです。