船の流し方
ドテラ流しを知る上で、まずは遊漁船にはどんな流し方があるのかを知っておきましょう。基本は3種類。またどんな流し方でも船長の腕次第、という部分があります。釣らせる船とは、釣り人が釣りやすい環境を作ることができる操船技術を持った船長がいるということでしょう。

ドテラ流し
特に道具を使うことなく、風を船の胴で受けてナチュラルに流します。船の向きを操船することもありますが、エンジンは基本的に切っておき、魚が警戒心を抱かないようにします。
スパンカー(帆立)
船尾に付けられた三角形の帆を広げ、風を受け流しながら、船も流す釣り方。エンジンは掛けたままで操船しながら船の向きや流れる速さを釣り人が釣りやすいように調整します。
シーアンカー(パラシュート)
風が強く潮の流れよりも船が速く流されるときに、特に活躍します。バーチカルな釣りに向いており、両舷から竿を出すことができます。船首が風上(風下)に向くので船が揺れにくいです。
これが基本の流し方で、地域やポイントにより操船方法が違い、遊漁規則により流し方を決められている場合もあります。
なぜ船を流すのか
アンカー(錨)で底の障害物などに引っ掛けて船を固定して釣る方法もあります。これは、船の周囲のみを重点的に狙うのに適しています。
瀬の上で釣る場合や、仕掛けを流しながら釣る場合に適したやり方です。
しかし、ルアー釣りで船をアンカーで固定して狙うことはほぼありません。その理由は、同一ポイントをじっくりと狙うよりも、次々にポイントを攻めていくというスタイルがタイラバにマッチするからです。いわば沖をランガンしていき広い範囲を探っているイメージです。
なぜドテラ流し?

マキエを使用したエサ釣りでは、ドテラ流しで狙うことはほとんどなく、自分が撒いたエサで釣りができるように、底潮の流れと船の流れが同調するよう流すのが一般的です。いわゆるバーチカルな釣りで、タイラバや一つテンヤ、ティップランエギングなども、シーアンカーやスパンカーを使った流しが好まれています。
それに仕掛けが真下に落ちていくことから、釣りの技術に差が出やすい乗り合い船としては、おまつりなどのトラブルが少なく釣りに専念できます。
対してドテラ流しは、風を受ける釣りなので、潮の流れを少し無視した釣り方です。エンジンを切って流すため魚に警戒心を与えないことのメリットが大きいと思われがちですが、実際は広範囲を探れることの方がメリットは大きいです。それに潮が流れていなくても、風の抵抗で船は流れてくれます。また、通常の流し方では上流側の釣り人が釣れやすいことが多いですが、ドテラ流しでは片舷で竿を出すためチャンスは平等に訪れます。
ドテラ流しの難しいところ
ドテラ流しに慣れていない人がまず苦労するのが着底の判定。バーチカルな釣りでも着底が分かりにくいという人はかなり苦労します。しかも、風の強弱で流されている訳ですから一定の速度で船は進まないです。だからカウントダウンでは対応できないと思ってよいでしょう。フォール中ラインを出している途中に強風が吹くと一気にラインが出ていき、弱まるとたるんだりするなど、イレギュラーな動きに対応しなければなりません。
片舷に並んで釣るからおまつりは少なくなりますが、風の向きが定まらないときは船が左右に振れるから、トラブルが多くなることも。
そんなちょいと難しいドテラ流しを少しでも楽に狙うように考えてみましょう。
ラインの送り
ドテラ流しではルアーを投下した場所からどんどんと離れていくため、船の流される距離とルアーが沈んでいく距離がプラスされ、ラインがどんどんと出ていくことになります。通常、オフショアゲームではトップを除き一旦ボトムにルアーを着底させてから狙い始めることが多いですから、ドテラ流しはバーチカルな釣りに比べてより多く速くラインを放出させなければルアーの沈降を妨げてしまうことになります。しかし、ここで難しいのがどの程度の速さでラインを送ればよいかです。

上の図のように、ルアーの沈降速度よりも速くラインを送った場合、ラインは潮流や風に影響されルアーとの実際の距離よりも長く出てしまうことになります。こうなるとルアーの操作性が悪い上に、アタリも出にくくなります。しかしルアーはフリーの状態で落ちていくので、投下した地点の真下に沈下していくため、ポイントを外れにくいです。ただしラインはルアーとロッドに対して常に真っすぐになっている訳ではなく蛇行しているため他の釣り人とのトラブルが発生しやすくなることもあります。他の釣り人がラインを張って流しているなら、おまつりも想像できるでしょう。
このようにラインを張ってルアーを落とす(サミング)、ふわっと落とす(フリー)など状況に合わせた対応が必要となりますが、一般的に考えれば操作性を悪くしてまで流す人は少ないので、ルアーとロッド間のラインは適度に張った状態で流すのが妥当でしょう。ピンポイントに素早くフォールさせたい場合は号数を大きくした方が無難で、仕掛け回収後すぐに落としたい場合はフリーフォールを試してみるとよいでしょう。
ラインの角度

ここでどこまで流すかという疑問が生まれます。最大でリールのラインキャパいっぱいに流すことが可能ですが、使用するリールサイズにより異なるので一概に言えません。しかし、流せば流すほど引き抵抗は重くなり、ロッドでさばけないほど重くなってしまいます。一般的にいわれるのは、200mちょっとはラインを出すことになるから、ラインキャパは300m以上のものが必要ということです。これも、船と潮の流れの速さ+水深によって大きく異なるので、なんとも説明しづらいです。
このままでは解説にならないので、よく言われるのはラインと水面の角度は30〜60度が理想ということと、ボトムが取りにくくなったころにアタリがよく出るということです。角度については浅い水深ほどルアー着水後早い時間で鋭角になり、深い水深ほどなりにくいです。
探る範囲は鋭角ほど長い
ラインの角度を気にする理由は探れる水深にあります。それは、角度が鋭角なほど横移動が大きくなり、ルアーは少しずつしか浮き上がらないということです。ひらたく言うと、鋭角なほど同じレンジをより長く探れるということです。これがドテラ流しの最大の利点です。「ラインが斜めになってルアーが重くて釣りにくいし、着底が分かりにくい」と思った人も多いでしょうが、これこそドテラ流しをする理由です。もちろん、同一レンジを長く引いた方がよく釣れるという保証はありませんが、総じて魚は同じレンジを横移動しながら泳いでいるから、理にかなった狙い方だといえるでしょう。
例えばシーアンカーを使用したタイラバの場合、ほぼバーチカルな釣りが展開されるから、ボトムから10mなどと決めて、巻いては落としを繰り返す。これはこの範囲にマダイがいるということを前提に同一レンジを探る手法です。タイラバではゆっくり巻き上げるのが基本なのも、同一レンジをゆっくり狙うという意味も大きいです。
巻き上げ速度はどうする
船が潮とは違う方向や速度で流されるということは、ラインを止めたままじっとしていると、ラインが張りルアーが引かれて自然と浮き上がってきます。つまり、リールハンドルを回してラインを巻き取らなくても、じっとしているだけでルアーは船に引っ張られてレンジを上げながら探れるということです。無理にルアーを動かさないからナチュラルに探れるという一つの考え方ですが、通常はリトリーブして狙います。
巻き上げ速度はルアーにより違い、使用しているルアーがアクションする程度というのが基本です。状況によりゆっくりも速巻きもどちらもありです。一つ言えることは、ラインが鋭角になるほど横方向に探ることになるから、急浮上を不得意とするマダイにとってはルアーを追いやすいということです。少々速くルアーを動かしても追い付いてルアーを食ってくれます。釣れるパターンを積極的に探りましょう。

ルアーの重量
ルアーの重量を考える前に、前提としてラインの太さによる違いが大きいです。例えば、メタルジグ100gを使った場合、PEライン2号と3号ではまったく別物と思ってよいでしょう。それだけラインが受ける海水の影響は大きいです。
例に挙げると、タイラバの重量を決める基準は水深と同じg数。対してメタルジグは水深×20gが一般的です。タイラバはロッドが柔らかくPEライン1号くらいまでを使うし、単純に巻き上げる作業だけだからタイラバの重量は軽くても問題ありませんが、ジギングロッドは硬いことと対象魚が青物メインなので、アクションを大きく付けるためPEラインは2号以上が一般的です。だからメタルジグはタイラバよりも重いものを使用するケースが多くなります。
以上はバーチカルな釣りを展開した場合の基準であるので、ドテラ流しではプラスαの重さを付加させる必要があります。プラスαはルアーの形状や潮抜けの良さ、素材によるから水深100mなら何gを使うかなど自分基準を作っておくのが大切です。
最近ではマダイ狙いでもディープや急潮狙いが多くなってきたから、より重いルアーも必要となるケースが増えているようです。
なぜドテラと呼ばれるようになったのか
はっきりとした資料はありませんが、衣類の褞袍(丹前)とは違い、「土手っ腹」からきたとされる説が有力です。土手っ腹とはお腹のことをののしった表現ですが、舷側などのように外に膨らんでいるもののことも刺します。「船の土手っ腹に穴があいた」などが代表的ですね。つまり、ドテラ流しとは、船の土手っ腹に風を受けながら流す釣りなので「土手っ腹で流す」、それがなまって「ドテラ流し」になったのではないでしょうか。