グレ釣り、チヌ釣りにかかわらず、現代は仕掛けのパーツの中で道糸が大きな比重を占めています。仕掛けを張りながらツケエを先行させ、きっちりマキエと同調させるという前提をクリアするには道糸が大きな役割を担っているからです。特に、道糸の比重が及ぼす影響は大きいです。この道糸の比重、セミフロートライン&サスペンドラインに注目してみましょう。
サスペンドラインを使いこなせばツケエをターゲットの口元に送り届けるのがたやすくなります。
サスペンドライン

「道糸を比重で分類するとフロートとシンキングに分けられます」と昔の釣りガイドブックにはそう記述されています。やがてサスペンドと呼ばれるタイプが登場し、ウキ釣りではシンキングは好まれないという事実が普及して、フロートタイプ、サスペンドタイプという二つが主流となります。
しかし、いずれも長所・短所があり、使いこなすにはそれを把握して短所をカバーするような操作をする必要があります。そこで、まずは両者の特徴をおさらいをしておきましょう。
水面に浮かぶフロートライン

フロートラインは文字通り水面に浮かびます。市販されているフロートラインの比重は1.02〜1.05に設定されています。それに比べて、海水は1.02〜1.03。水温や塩分濃度によって変化するため固定された数字ではありませんが、おおむねその前後と思ってよいでしょう。つまり、フロートラインは海水とほぼ同じ比重であり、そのため沈まないという特徴があります。
とはいえ、ナイロンには吸水性がある。最近の道糸はコーティング技術が発達してなかなか水を吸わなくなってはいるものの、長時間使用しているとガイドと擦れてコーティング剤が剥がれ、だんだん水を吸ってきます。するとフローティングラインといえども沈み始めることを知っておきましょう。
なお、かつてはナイロン糸の比重を小さくするため空気を入れていました。中空構造にすることで軽くしていたのです。そのため、強度に問題がありましたが、現在ではその点は解消されています。
浮かず沈まずのサスペンドライン
サスペンドには浮遊するという意味があります。浮遊とは空中・水中にとどまることで、道糸が浮くことなく、また沈むこともありません。比重は1.1前後に設定されていて海水よりわずかに重たいです。
ただし、フロートラインと同様、時間が経過すると水を吸うようになり、どんどん沈み始めます。

サスペンドラインが登場した背景には全遊動や全層釣法、沈め釣りなどのバーチカル釣法(タテに探る釣り方)が広まったことにあります。かつて、ウキはどこまでも水面に浮いた状態で流れていました。だからフロートラインで支障はなかった(条件付きながら)のですが、全遊動沈め、全層沈め、沈め釣りといったウキを沈める釣り方だと問題が出てきます。
できるだけ小さいオモリで仕掛けを沈めたいのに、道糸に浮力があるとそれを妨害してしまいます。そこで、仕掛けが沈むのをジャマせず、スムーズに送り込むことを目的として開発されたのがサスペンドラインだったのです。
浮かぶラインと沈むライン

上の図を見れば、フロートタイプとサスペンドタイプの違いは分かりやすいでしょう。ウキが沈むにつれてサスペンドラインは沈んでいきます。一方、フロートラインは浮かんでいます。
このことから、それぞれのタイプのメリットとデメリットが浮かんできます。フロートラインは水面にあります。そのため視認性が高く、どういう状態であるかが非常に分かりやすいです。しかし、潮と同じ方向に風が吹いていると道糸は風下=潮下に流され、仕掛けを引っ張ってしまいます。するとツケエが流れるコースが変わり、マキエとは外れることになります。フロートラインは風に弱いといわれる所以です。

対して、サスペンドラインは沈んでいるため風の影響を受けにくい。もちろん、ウキも水中にあるから少々の風が吹いても潮に乗って流れます。
反面、道糸が見えないからどこを流れているか分からないという難点があります。さらに、修正する際に、沈んでいる道糸を空中に持ち上げる必要があり、その際に仕掛けがズレる可能性が非常に高いです。
セミフロートラインの誕生
フロートラインは使いやすい一方で風に弱い。そのため、風のない日限定で使うというのが定説になっていましたが、釣り場で風がない状況というのはめったにありません。結果として、フロートラインの出番は少なくなっていました。
それをカバーするために開発されたのがセミフロートラインです。比重は1.08〜1.09で、フロートラインとサスペンドラインの中間に位置しています。メーカーの説明では水面下5〜10㎝を漂うといいます。
風の影響を受けず(表層流には左右されるが)、それでいて道糸の切り返しはたやすくできます。
なお、セミサスペンドラインという商品もあります。セミフロートラインより沈みやすいのでしょうが、ほとんど差はないという意見もあります。実際に使ってみて確かめてください。
ウキを沈める釣りでこそ真価を発揮する
サスペンドラインはウキを沈める釣り方が登場して、その釣り方に適した道糸を要望する声に応える形で生まれました。したがって、ほとんどの場合、このタイプの道糸はウキを沈める釣法=沈め釣り、全遊動沈め、全層沈めでその真価を発揮します。
これからサスペンドラインが得意とする状況、および苦手とする条件を紹介しますが、沈め釣りを前提としていることを再度断っておきます。

風に強い
ウキ釣りでは雨より風の方が悪条件としてのランクは上になります。風が及ぼす悪影響はいろいろありますが、最大のものは仕掛けが素直に潮に乗れないことにあります。道糸が風(特に横風)を受けるとその方向に引っ張られ、仕掛けは潮の流れから外れてしまうのです。
しかし、マキエは風の影響を受けず、そのまま潮に乗って流れていきます。その結果、仕掛けとマキエはどんどん外れてグレがアタることはほとんど期待できなくなります。仕掛けが風により流れるコースが移動するのを予測して、マキエの投入点を変えておけば同調させるのは不可能ではないですが、マキエとツケエがクロスするため同調する時間は短いです。

その点、サスペンドラインはウキが沈むとともに沈んでいくため風の影響を受けにくいです。仕掛け投入直後は水面近くにあるため風向きに左右されるものの、ある程度沈めば潮に乗って同調させやすくなります。
これは風だけではなく、表層と中層の流れが異なる二枚潮の場合でも効果を発揮します。道糸が浮かんでいると上層の流れに仕掛けは乗りやすいです。しかし、グレのタナが中層であるとそれでは同調が難しいです。道糸が沈むと仕掛けもマキエと同じ潮に乗るため同調させやすいです。
同調時間が長い

タテに探るバーチカル釣法の大きな目的は二つあります。一つはグレのタナを探ること。もう一つはマキエとの同調時間が長い点にあります。
ウキが沈む速度をできるだけマキエのそれに合わせると、ほぼ同じタイミングで投入された両者は同調した状態を長く保って沈んでいきます。
スムーズに沈んでいくサスペンドラインだから抵抗は少なく、同調時間は長いです。フロートラインでは道糸を沈めるための荷重が別に必要で、しかも道糸が持つ浮力は時間の経過とともに変化するため調整するのが難しいです。
もっとも、フロートラインには上から引っ張る力があり、仕掛けが沈む速度にブレーキをかけるため仕掛けを張りやすくなるというメリットがあります。その点に関しては、サスペンドラインの場合、仕掛けを張るためのなんらかの操作が欠かせないことになります。
潜り潮を探しやすい
ガン玉で調整してウキの浮力をわずかにマイナスにして、仕掛けをゆっくり沈下させるのが沈め釣りです。状況がシビアで強制的に沈める場合は別として、仕掛けが完全になじんでからウキは沈むように設定します。そのため、ガン玉からツケエまでが所定のタナに沈んでからウキは沈み始めます。仕掛けが着水してからウキが沈むまでは少しの時間がかかるのが通例です。
しかし、例外はあります。仕掛けが早々になじみ、ウキが沈んでゆくケースもあります。それが潜り潮に遭遇した場合です。マキエがその潮に乗ると一気にグレのタナに達します。往々にしてグレの群れはその潜り潮の下に集まり、沈んでくるマキエを待ち構えています。つまり、潜り潮の下はグレの好ポイントである場合が多いのです。
サスペンドラインを利用しているとこの潜り潮に敏感に反応します。コンマ以下の比重の差でどれほどの違いが出るのかと思うかもしれませんが、なにしろ道糸は長い。風や流れの抵抗を大きく受けます。わずかな比重の差が大きく表れることは自分で使って試してみれば分かるでしょう。
逆に、なかなか沈まない場合は浮き上がる流れがあると判断できます。
グレのタナが浅いときは適さない

サスペンドラインは水中にあってこその能力を存分に発揮できます。これは裏を返せば、それ以外の状況ではメリットを得られないことになります。例えば水面を漂っている状態が継続していれば、微風程度の風である限りフロートラインの方がずっと使いやすいです。
初夏や秋口で活性が高く、グレが水面近くまで湧いている場合は道糸を沈ませる必要がありません。多少の風が吹いていたとしても、仕掛けが潮筋から外れる前にグレのタナに達するからフロートラインで十分対応できます。もっとも、浅ダナでアタるケースでは、道糸にどんなタイプを使っても影響は少ないといってよいでしょう。
サラシや本流では効果が出ない

同じ理由で、サスペンドラインはサラシや本流では出番はありません。仕掛けは波や流れに翻弄され、落ち着いて沈んでいくヒマはありません。
では、どんなタイプの道糸ならマッチするのかというと、はっきりいってどんな道糸でも構わない。そういう状況で注意しないといけないのはハリスとガン玉になる。激しくもまれる海の中では落ち着いた方が魚は食べやすいようで、しっかりとガン玉でタナを確保し、コシのあるハリスで仕掛けを張ることに専念した方が良い結果が出ます。
というわけで、サスペンドラインが良くないというわけではありません。
仕掛けの位置が分からない

現在の道糸は大半が蛍光色で視認性を高めています。自分の仕掛けがどこにあり、道糸はどのような状態にあるかを知るには蛍光ラインが非常に都合がよいからです。
しかし、沈めてしまえば仕掛けの位置も道糸の状態も分からなくなります。サスペンドラインはそういうデメリットがあることを理解しておかなくてはいけません。
ウキが見えない以上、アタリは道糸、または穂先で取るわけですが、小さいアタリはまず分かりません。カワハギのような小さいながらもチョンチョンとくるアタリなら、道糸を張っていれば穂先で感じ取れるかもしれませんが、そうでない限りツケエはいつの間にかかすめ盗られているケースが多いです。

それが理由で、沈め釣りなどのバーチカル釣法はアタリが取りづらいのがデメリットといわれることがままあります。しかし、この評価は必ずしも正しいとはいえません。では、ウキを浮かせていればすべてのアタリが取れるのかというと、決してそんなことはないからです。固定ウキでも半遊動ウキでも、アタリが分からないままにツケエを取られることは珍しくありません。むしろ、アタリが分かるのは少ない方です。
チヌ釣りでよく見られるケースとして、ウキが少し沈んだままでそれ以上動かないことがありますが、確かにそういうアタリはバーチカル釣法では捉えづらいです。しかし、固定や半遊動に比べてバーチカルは魚が食い込んだときの抵抗が小さいです。
つまるところ、これは選択肢の問題になります。小さいアタリを取りたいか、それとも食い込みの良さを重視するかで、それは釣り人が決めることです。
糸フケを消して早くアタリに反応する

沈め釣りではアタリを道糸、または穂先でとります。しかし、大きな課題がまだ解消されてはいません。いかに早くアタリを取るかです。沈め釣りなどのバーチカル釣法では概してウキの抵抗が小さく、魚の食い込みは良いです。ですが、常に食い込みが良いわけではありません。特に、これから水温が下がると魚の活性は落ち、一気にエサを吸い込むことは少なくなります。
すると、アワセのタイミングが遅れた場合、一度は口にしたツケエを吐き出すことがあるし、逆にハリを飲み込んでしまうケースも見られます。
それを避けるにはアタリを早く知る必要があります。
そこで、質問です。沈め釣りでアタリを早く知るにはどうすればよいでしょうか?

答えは、道糸のフケを極力少なくすることです。糸フケが多いと、エサをくわえた魚が多少動いてもその動きは手元まで伝わりません。糸フケが少ないとすぐ手元まで伝わり、アタリを知ることができます。
とはいえ、沈め釣りで糸フケを解消するのは非常に難しいです。スムーズに沈むサスペンドラインを使っていても、フロートタイプよりマシとはいえ、なにもしなければ糸フケは確実に発生します。道糸を張りすぎると仕掛けは沈まないし、送り込みすぎると糸フケができます。この点がバーチカル釣法の最も難しい部分といってよいでしょう。
1000釣法の糸フケ解消法

というわけで、ここでは池永祐二さんの糸フケ解消法を紹介しましょう。池永さんといえば1000釣法。10mのハリスの中間にウキをセットして沈めていくという他に類を見ない釣法で、グレのみならず、チヌやアジにも抜群の釣果を発揮されています。
仕掛けが沈む速度はマキエと同じというのが理想であり、ガン玉は極力使いません。したがって、一般的な沈め釣りと同様に張りすぎると仕掛けは沈まず、送りすぎると糸フケができてしまいます。
その池永さんが実施しているのは、仕掛けがある程度沈んだところで竿先を水面に向け、ビシッと手前に引くという操作です。竿を振るのではなく手前に引くから動く範囲は狭いです。せいぜい30〜50㎝でしょう。それを2、3回行うと、それまでは感じられなかった重みを竿先に感じるようになります。そうなれば糸フケは解消されと見てよいでしょう。
といって、そのままにしていたのではまた糸フケが発生します。そこで、数分おきに同じ動作を繰り返します。仕掛けを流している間は何度もこれを繰り返すことになります。
色分けされたサスペンドライン

沈め釣りの大きなデメリットとしてはアタリが取りづらいのともう一つ、ヒットしたタナが分からないというのがあります。1尾ヒットしたから同じタナを釣りたいと思っても、どの程度の深さで食ったかが非常に分かりづらいのです。沈め釣りに頼る状況というのは往々にしてグレのタナが深い場合が多く、そのことも拍車をかけています。
ベテランになれば仕掛けをどこまで沈めたかは大まかにだが見当はつきます。しかし、沈め釣りの初心者にとってそれは難しいです。
そこで、色分けされたサスペンドラインの使用をおすすめします。近年の道糸に関する技術革新は目を見張るものがあり、染色技術もその一つといってよいでしょう。
穂先は軟らかいものを

アタリは道糸、または穂先で取ると前述しましたが、風があると道糸では分かりづらくなります。その場合は穂先の動きで判断しなければなりません。そういうケースでは軟らかい穂先が有利になります。穂先が硬いと食い込んだときの抵抗が大きくなり、食いが渋い場合はエサを離す可能性が高いのです。
さらに、穂先でアタリを取るときはどの時点でアワセを入れるかが大きな課題となるのですが、穂先が軟らかいと選択肢が広いというメリットがあります。即アワセでよいのか、それとも数秒待ってアワせた方が確実かは、そのときのグレの食い方で変わってきます。穂先が硬いと許容量が少なく、食わせるのは難しいです。
ただし、勘違いしないでほしいのですが、穂先が軟らかい竿とは軟調子ではありません。0号や0.8号というわけではない。寒グレシーズンに使われる竿は1.25号や1.5号がメインになるでしょうが、腰はしっかりしていながら穂先は軟らかく、食い込みを阻害しないという意味です。
ウキは小粒が原則

サスペンドラインの実力を発揮させるには、小粒のウキが望ましいです。浮力を殺してしまうのですからサイズは問題にならないと思っている人がいますが、それは誤りです。沈め釣りとはウキを沈める釣り方を差しますが、魚が見ているのはウキではありません。ツケエです。マキエのオキアミと同じようにツケエが沈んでいく様を演出するのが沈め釣りだと解釈しなければならない。
そう考えたとき、ウキという存在は余計なものでしかありません。沈む速度はガン玉で調整はできても、中層の流れの影響は取り除くことができません。その結果、オキアミ単体とは異なる動きをすることになります。
ウキを使わないわけにはいかないのですから、できるだけ小さいものを使用して影響を少しでも減らすことを考えるべきでしょう。

ウキについてはもう一つ付け加えておきましょう。それは、メーカー品を選択し、極力同じものを使うということです。メーカー品であればオモリ負荷はある程度信頼できます。いくらサスペンドラインを使用したとしても、オモリ負荷が表示とズレているとスムーズに沈んではくれません。
さらに、同じオモリ負荷表示であっても商品によって多少のバラツキがあります。海の状況というのは同じことはありません。水温や塩分濃度によって仕掛けの沈み方は微妙に変わってきます。そのとき、基準となるものが一つでも多いと調整しやすくなります。
それがウキであり、ハリス、ハリ、ガン玉です。まったく同じものを使っていれば、今日の海は重たい・軽いという判断ができます。そうすれば対策も立てやすいです。