正体不明の魚を知るためには
魚資源が減少するにつれて大型の魚も減ってきています。それにともなって、フカセ釣りをしていて超大型に遭遇する機会は非常に少ないという現状があります。
そういう中で正体不明の超大物に出会ったとすれば、釣り人として非常に幸運といっていいでしょう。当人のその後の釣り人生において魅力的な話題となるのは間違いありません。

とはいえ、バラした直後のショックは大きい。呆然としてすぐには言葉が出ない。立ち直ったところで悔しさに襲われ、なんとかして釣り上げてやろうと思います。
だが、正体が判明しないことには手の打ちようがありません。間違っていたとしてもある程度魚種に見当をつけておきたいですね。
そのためには、どのような状況でバラしたかを分析しなければなりません。その状況を次の三つに分けてみました。
①いきなりウキが海中に入り、そのまま止まらなかった。
②アワせた途端に魚が走った。
③やり取りの途中で突然強烈な引きに襲われた。
以下、それぞれの状況を解説してみよう。
いきなりウキが入る(走る)のは青物、またはエイ
潮に乗ってゆっくりと流れていたウキがいきなり走ったとしたら、魚はその速度で泳いでいたと考えていいでしょう。そして、そのようなスピードで泳ぎながらエサを食べる魚は多くありません。
沿岸部で可能性が高いのは第一に青物であり、第二にエイと考えていいでしょう。青物はブリ、ヒラマサが中心で、エリアによってはカンパチも混じります。
時期は秋〜冬が多いですが、6〜7月に回遊してくる場合もあります。

エイはアカエイ、トビエイが多いです。いずれも暖海性で、夏の南日本でよく見られます。堤防釣りで置き竿にしていると竿が飛んでいって、リールも竿も失うケースが珍しくありません。
エイは砂地に多く、磯でアタることは少ないとはいえ、沖が砂地であれば磯でもヒットします。
一発目のヒットをその後の参考にする
青物の群れが回遊してくると、そこで竿出ししていた釣り人に一斉にヒットします。そして、当然ながら連続してバラしてしまいます。
グレに対応していた仕掛けを使っていたのだから、不可抗力といってもいいです。
問題はその後です。そのとき、自分が所持しているタックル、仕掛けと相談して諦めるかチャレンジするかを決める。太刀打ちできないと判断すれば群れが去るまで待つしかありません。
青物のシーズン初期はオキアミを食べないから早く遠ざかる確率が高い。だが、完全にオキアミをエサと認知してしまうと、そこにオキアミがある以上なかなか去ってはくれません。
そういうことを知ってチャレンジすると決めたら、そこにある一番硬い竿と一番太いハリスで挑みましょう。ヒットしたらフリーで泳がせるしかなく、あとは運に任せます。
なにしろ、専用の仕掛けを使っていても取り込める確率は低い魚だからです。

青物に比べるとエイは取り込める可能性があります。こちらは単発でヒットするため予測はできないものの、エイが出没するエリアはある程度決まっています。
ここは「出る」可能性があると知っていれば、それなりの心の準備はできているでしょう。青物ほど泳ぐスピードは速くなく、レバーブレーキである程度は対応できます。
アカエイは底に貼りつくことがありますが、待っていればまた動き出します。あとはサイズ次第で、1m以下ならなんとか取り込めるでしょう。
アワせた途端に走り出す魚は種類が多い
それまでと同じようにウキが沈んだから何気なく竿を立てたところ、突然強烈な引きに襲われて驚いた経験は、長く釣りをしているベテランなら一度や二度は味わっているでしょう。
30〜40㎝クラスのグレとは明らかに異なる抵抗で、あれよあれよという間に突っ込まれて切られるというパターンです。
このケースの正体はマダイが多いです。条件によっては日中でも浅ダナまで浮上することがあり、砂地でも回遊してきます。
往々にしてマダイは一気に食い込むことが多く、ハリに掛かると異常を感じて突然走り出します。
ただ、マダイが磯に貼りつくケースは少なく、また泳ぐスピードも青物ほどではないので、対応次第では細仕掛けでも取り込めないことはまずありません。
とはいえ、突然強い引きに遭遇して慌てずに対処できる釣り人は少ないです。よほど経験値の高いベテランでなければ慌てるばかりで、なにもできずに終わってしまいます。
アワせた直後の走りにどう対応できるかが勝負の分かれ目で、バラすのはこのタイミングが一番多いです。
ベールを起こしてフリーで走らせるか、ストッパーをオフにしてレバーブレーキで送るか、いずれにしても瞬間的な対応が迫られます。

同じような反応を見せる魚にフエフキダイやコショウダイ、さらにはイシダイ、コブダイなどがいます。
ヒットする可能性が高いことを知っていれば、最初から大物用の道具を準備しておくという方法もあります。
2〜3号の竿にハリス5〜10号を用意しておき、バラしたときすぐに交換すれば再びヒットする可能性があるとはいえ、いずれも群れで行動する魚ではありません。
もう一度食ってくれるかどうかはあまり期待できません。タナが深ければハタやクエの可能性もありますが、底でアタるとすぐ貼りつかれるため取り込むのは難しいのです。
ハリが口以外の部分に掛かるスレ掛かり
アワせるとハリは海の中で鋭く動きます。どれだけソフトにアワせても、鋭利なハリ先はその先にあるものに突き刺さります。そこにたまたま魚がいれば口以外の部分に刺さることも珍しくありません。
これをスレ掛かりといいます。
口以外のところに掛かるとダメージが少ないのか、魚の抵抗は非常に強いです。ハリに掛かった魚の正体がなにか最後の最後まで分からなかったということもある。
問題は、そのスレ掛かりした魚が大きかった場合です。
通常はオキアミを食べない魚、早くいえば魚を食べる魚がオキアミを食べるために集まってきた小魚を捕食しようと仕掛けの周囲に近づき、アワせたハリに掛かります。
するとその瞬間、体のどこかに掛かった魚は驚いて走りだします。

魚を食べる魚、いわゆるフィッシュイーターは種類が限られます。青物以外にはハタ類やクエ、ソイ、ヒラメ、マゴチなどがいます。もちろんスズキの存在も忘れてはいけません。
ただし、青物やハタ類がスレ掛かりするケースは少ないです。エサの周囲でウロウロすることが多いのはヒラメやマゴチ、スズキで、取り込める確率は比較的高くなります。
面白いのはスズキで、この魚はよくサビキ仕掛けに掛かります。小アジのサビキ釣りをしているとスズキは小アジを食べようとして近づいてきます。
ところが、ご存じのようにサビキ仕掛けはハリ数が多い。
シャクったときにこのハリが体に掛かりやすいのです。ハリスは細くてもハリ数が多く、暴れたら暴れるほどハリが絡まって身動きできなくなり、1mクラスでも取り込める確率が高くなります。
ハリに掛かった魚を襲うスチールフィッシュ
総じてフィッシュイーターは動きが速く、機敏だと思われています。泳いでいる魚を食べるのだからそれも当然なのですが、魚を食べる魚がターゲットとするのは元気な魚だけではありません。
ルアーマンならよくご存知でしょうが、満足に泳げない傷ついた、あるいは弱った魚を第一の目標とするケースもあります。その方が確実だし、捕食するのに苦労しなくて済むからです。
ハリに掛かった魚はターゲットとしてはまさに恰好で、ハリから逃げようとして抵抗するその動きがフィッシュイーターを呼び寄せます。

しかし、横取りされた方はたまったものではありません。やり取りを楽しんでいたのに、突然獲物が襲われるのです。オレの獲物を取るな! と叫びたいところです。
竿はグンニャリと曲がり、なす術もなく引っ張り込まれて切られてしまいます。
この横取り魚=スチールフィッシュの大半はサメですが、南日本に行くとなじみの薄いフィッシュイーターが多く、エサにするムロアジを横取りされることが珍しくありません。
青物やサメなどの脅威が迫ると魚はすみかに隠れてじっとしているものですが、ハリに掛かって暴れているところに接近してくると逃げようはなく、むざむざと食べられてしまいます。
被害から免れるにはいかに早く取り込むか
ハリに掛かった魚は一般的には自分のすみかに逃げ込もうとします。グレの場合は手近な岩に貼りつこうとします。中層まで浮かされたグレは潜ろうとして海底に向かいます。
ところが、サメが出現すると自ら進んでワンドに突っ込んできます。その動きを読めばサメ被害から、100%とはいえないが免れることができます。
その方法とは、ハリに掛かった魚が海の中にいる時間をできるだけ短くするに尽きる。つまり、極力磯に近いところで食わせ、そしていかに早く取り込むかということです。
もっとも、文字にすれば簡単ですが、実際に行うのは簡単ではありません。ヒットポイントを決めるのは魚であって、釣り人ではありません。
活性が高ければマキエでコントロールできるかもしれないし、近いところで食う魚しか相手にしないというのも一つの考え方でしょう。
沖で食わせても取り込めないのなら、最初から相手にしない方が賢明といえるでしょう。

取り込み時間の短縮については、太いハリスでゴリ巻きするしかありません。ハリに掛かった魚が大きいと手間取るため、横取りされる確率が高いです。
磯釣りの話から逸れますが、ヒラマサの船釣りでは例年各地からサメ被害の報告が入ります。ですが、それも無理はありません。
良型のヒラマサは取り込みに時間がかかるのは当然で、サメが出没しているエリアにはできるだけ釣行しないという対策しかないからです。
そのほかで正体不明のフィッシュイーターの可能性があるのはアオリイカです。
小魚がハリ掛かりするとそれを横取りし、ジェット噴射で逃げます。最後は身切れするから正体は分からずじまいというケースも考えられます。