Tackles Scramble 釣り道具「ハリ」

国産初の本格的なアウトスプールリールであるオリムピックの93型が発売されて60年以上が経過した……といっても、93型リールなんて読者の皆さんの半分以上は知らないんだろうな。

年月が経過すると古いものはどんどん忘れ去られていくのは当然なのだが、古いタックルの中には面白いエピソードが数々隠されている。そんなエピソードを紹介してみよう。

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よいハリとは

87年当時のがまかつの広告

20年以上前に聞いたのだが、いまだに忘れられない言葉がある。
「がまかつはええですね〜」がそれだ。とある漁港で出会ったお爺さんがそう発した。
そして続けた。

「がまかつは刺さりがええですなー」

釣り道具が目覚ましい進化を遂げたのはいうまでもなく、その範疇にはもちろんハリも含まれる。

そこで皆さんに聞いてみたい。「ええ」ハリとはどんなものだと思いますか?

真っ先に思い浮かぶのが、お爺さんのいう刺さりの良さだ。

現在の釣り人は、販売されている釣りバリはすべて鋭いものだと信じている。事実、一流メーカーの商品はすべてといってよいほど品質は優れている。

ところが、ひと昔、いや、ふた昔前かな。ハリスを結ぶときは必ずハリ先をチェックしなさいとガイドブックには書かれていたのだ。

ハリの鋭さ

爪に立ててそれが滑るとハリ先はナマっているから刺さりが悪く、アワせてもハリ掛かりがしづらく、また一度は掛かってもやり取りの途中で外れる可能性が高い。

そんな商品が堂々とまかり通っていて、しかもそれで通用していたのだから時代の違いがよく分かる。

刺さらないハリ

ハリの製造工程の段階として、ハリ先の研ぎというのはどんな工場でもある(尖頭と呼ぶ)。つまり、すべての商品はハリ先が研がれているはずなのだ。

なのに、釣具店の店頭に並んでいるハリの中には、かつては当たり前のように鋭くないものが混じっていた。

なぜか?(検品漏れはこの際、無視する)

チヌ

答えの一つは、ハリ先の折れにある。先端を鋭くしようとして鋭角にすると細くなる。すると折れる可能性が高い。

ハリの製造工程の一部に、鋼材を成型したあと加熱して焼き入れし、ゆっくり冷やして焼き戻しをするという段階がある。

この過程で強度と粘りを持たせるのだが、その時点で非常に高度な技術が要求される。過去の未熟な技術では完成度が低く、硬度に問題があった。

もう一つの理由はハリ先が曲がっている可能性だ。現在、釣りバリは10〜20本単位で販売されている。それも、大半はフラットなパッケージで、中に収められたハリは動きが非常に限定されている。

対して、昔は油紙で包まれていただけでハリはある程度自由に動けることができた。

ハリ同士が接触して揺さぶれたら鋭い先端が曲がるのも仕方のない話で、このようにして「刺さらないハリ」が生まれていたようだ。

ハリは曲がるもの?

ハリの図

アワせたとき、Aの方向に対象物があるとスムーズに貫通する。だが、Bの方向だとハリは深くは刺さらない。刺さったとしても浅く、やり取りの途中で外れるケースが多い。

そして、ほとんどの場合、Cの方向に曲がり(伸びる?)、刺さることなくハリ先は戻る。いわゆるバネの効果で、専門用語ではスプリングバック現象という。

魚が掛からずに上がってきたハリを見て、アワセが早かったのかなと釣り人は推測する。次はもっと送り込んでみようと判断したとしても無理のない話だ。チヌなら遅アワセに徹しても問題はないだろうが、クロだとそうはいかない。状況によっては吐き出すこともあるからだ。

現在ほど技術が進化していない時代のハリは、C方向に力が加わると折れるか、または曲がっていた。曲がったとしても戻ることはなく、そのままの状態で上がってきたからすぐにそれと知れていた。

グレバリ

ハリを熱処理するとき、二つの方向がある。硬さを目指すか、それとも粘りを優先するか、だ。

技術が進化した現在では非常に高いレベルで二者択一を迫られるのだが、過去はそうではなく、どちらを選ぶかという論争が起きたものだ。

硬度を選択すると折れやすくなり、粘りを優先すると曲がりやすくなる。いうまでもなく、この場合の曲がる・折れるはハリのフトコロ部分であり、折れると確実に魚をバラしていた。

曲がっても少しは魚が残る可能性があるというわけで、当時は曲がる方がいいという結論が出ていたが、皆さんならどちらを選ぶだろう。

播州針

1987年釣ファン

手元に昭和53年(1987年)に発行された九州の地元誌「釣ファン2月号」がある。この号に掲載されているハリメーカーの広告は4社ある。

がまかつ、オーナーばり、ゴーセン・マスタッド、はりよしだ。マスタッドはなじみのない釣り人が多いだろうが、ノルウェーに発して現在では世界的な規模で販売されている。

はりよしは盛んなPR活動こそしていないが、現存しているれっきとした釣りバリメーカーだ。

ただ、40年以上も前に高い品質を目指して広く釣り人にアピールしたのががまかつであり、オーナーばりだったのだ。お爺さんの「がまかつはええですね〜」はここに端を発する。

チヌバリ
がまかつは現在大阪に本社を構えているが、設立当初は兵庫県西脇市に拠点を築いていた。

ところでオーナーばりの本社、そしてがまかつが兵庫県西脇市にあるのは皆さんご存知だろうか? はりよしは同県の小野市だ。

そのほか、金龍鉤も小野市、ハリ秀や土井富は加東市、ハヤブサ、川せみは三木市といずれも兵庫県の南西部に限定されている。この一帯は旧名播磨(はりま)国で、播州(ばんしゅう)とも称される。

我が国の釣りバリのルーツである播州バリの本拠地なのだ。ハリミツ、ささめ針は丹波市であり、播州には含まれないものの、近郊であるのは間違いなく製造技術が伝わったことは容易に想像できる。

詳しい内容は兵庫県釣り針協同組合のホームページで解説しているから、興味のある人は参照してみればよいだろう。

研ぐか交換するか

前述したように、現在のハリは先端が非常に鋭く仕上げられている。釣り人にとって、それはある意味歓迎材料なのだが、問題がまったくないわけではない。細くて鋭いため欠けやすいのだ。

どんなに硬度を上げても細ければ折れるのは当然だ。そのため、流している途中で石や岩に触れるとそれだけで先端は欠けてしまう。鱗が硬い魚だと魚体に触れただけでも欠けるという。

ではハリ先が欠けたらどうするか?

フックシャープナー

釣りの世界には昔からフックシャープナー=砥石というものが存在している。ナマったハリ先を研ぎ直すという行為は古くから当然とされていたのだ。

もちろん、ハリスを結ぶ前にハリ先が鋭くないことに気づけばその時点で研いでもいた。

ただし、現在のハリでそれをすることに対して疑問視する人が少なからずいる。

理由その一……最新のハリはコーティングで表面処理している。ハリ先を研げばコーティングも削り落とすためすぐナマってくる。

理由その二……ナマったハリをシャープナーで研ぐとき、方向を間違えると刺さりづらくなる可能性がある。

普通に考えると、フトコロからハリ先方向へシャープナーを動かしがちだが、実は反対だ。

ハリ先からフトコロ方向へ一方通行で動かすのが正解だ。ハリ先を耐水サンドペーパーに当てて横に動かすという方法もある。

いずれにしても研ぎ直した鋭さは長続きしない。チモトが受けているダメージ部分を切り捨てる意味でも、ハリは新しいものに交換した方がよいだろう。

著者:尾田裕和

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