チヌはフカセ釣りの人気ターゲット。相手を威嚇するときに大きく広げる鋭い背ビレと、ギョロっとした目つきがいかつく、野性的でカッコ良い。いぶし銀の鱗を身に纏い釣り人を魅了する。
チヌを釣りたくてフカセ釣りを始めたという人が多いのもうなずける。
堤防で釣れるサイズは40㎝くらいまでが多く、チヌ釣り師は50㎝以上のチヌを年無しと敬意を込めて呼ぶ。
さらに60㎝クラスになると30年以上生きていると推定され、個体数は少ない。日本記録は磯で出た71.6㎝だ。ちなみに堤防でも70.8㎝の実績がある。
チヌの生態

関東ではクロダイ、関西より西ではチヌと呼ばれる。幼魚はチンチンやカイズ、メイタと大きさによっても呼び名が変わる。
生息域は磯や堤防周辺だけではなく、都心近郊の湾内や汽水域と広範囲。エサを求めて川の中流まで遡上する個体もいる。
雑食性でエビやカニなどの甲殻類、カキや海藻、スイカに至るまで食べられるものは何でも食べる習性があるあため、チヌが狙える釣りエサの種類も多い。
チヌの行動パターン

春は産卵のため沖から浅い岸近くまで接岸してくる、いわゆる乗っ込みだ。この時期はメス1尾に対して数尾のオスが群れで行動する。
産卵で体力を消耗するのに備えて、産卵前のメスは荒食いをする。やがて産卵を終えたチヌは、使い切った体力の回復を行うため4~5月は積極的には動かなくなる。
季節が移り水温が上がってくると魚は活発になってくる。そしてしっかりとエサを食い体力をつけた精悍な顔つきのチヌが釣れ始めるのが夏だ。
体高のある成魚とメイタが競ってエサを食う夏。良型を狙うなら夜釣りが面白いシーズンだ。
秋になり水温が下がり始めると、冬のエサが少ない時期に備え、秋から冬にかけてよく食べるようになり脂が乗ってくる。
そして冬場は水温の安定する深場へ移動し、静かに春を待つのである。
というのが定説であったが、最近は冬でも動き回る小型も見られるようになり、20年くらい前とはかなり変わってきている。
タックル

竿の長さは4.5~5.3mがよく使われる。障害物が多い釣り場では5.7~6.3mといった長尺の竿が必要な場合もある。
竿の号数は00〜1.5号と幅広い。練りエサやオキアミなど柔らかいエサを使うことが多いので、チヌ専用の竿は仕掛けをソフトに投入しやすい軟調が使いやすい。
リールは2500~3000番。レバーブレーキ付きのものが便利だ。リールに巻く道糸はナイロンラインの1.5~2号を150m以上。
もしくはフカセ釣り用のPEライン0.6~1号にショックリーダーを結ぶこともある。ハリスは1.2~2号の号数違いを準備しておく。
ハリはチヌバリの2〜4号があればエサの大きさや釣り場の状況に応じて替えられる。ハリを飲ませて掛ける釣り方を好む場合はグレバリ5~6号を使う人もいる。
ダイレクトに探れる半遊動仕掛け

半遊動仕掛けの作り方は、道糸にウキ止めを付け、次にシモリ玉、ウキの順に通す。そしてウキストッパーを固定し道糸とハリスはサルカンで結ぶ。
ハリスの長さは3ヒロ(3.5〜4m)取り、チヌバリ2号からスタートする。
半遊動仕掛けの仕組みは道糸に付けたウキ止め糸がウキに当たると仕掛けはそれ以上沈んでいかないのでチヌの食うタナを横方向に長い距離狙うことができる。
ただしどのタナでチヌが食ってくるかは分からない。その場合はチヌ釣りの基本である底狙いから始める。
まず水深を調べてエサが底を這うようにウキ下の長さを決める。ハリにゴム管付きのオモリ1号を刺して仕掛けを海に投入しウキの沈み具合からウキ止めの位置を調整する。
潮の満ち引きで水深が変わればその都度ウキ止めを動かすことも忘れないようにしよう。
広く探れる全遊動仕掛け

次にチヌが釣れるタナを定めることができないとき。また、水温が上がってチヌが上ずってきたら底にエサを這わせるだけでは釣れなくなる。
そんな場合はタナを決めずに表層から底までツケエを落としていく方が効率的だ。このようなとき半遊動仕掛けで用いたウキ止めとシモリ玉を外す。これを全遊動仕掛けという。
この仕掛けのメリットはウキ止めを使わないのでチヌがエサを咥えたときに抵抗感が少なく食い込みが良い。
チヌのタナが時間の経過とともに変化していくので探るタナの範囲を決める半遊動よりも理論上チヌのタナを捉えるチャンスは多くなるというメリットがある。
状況に応じて半遊動、全遊動(全層)二つの仕掛けを使えるようにしておこう。
食わせエサ(ツケエ)


チヌ釣りのツケエは、代表的なものとしてオキアミ生、加工オキアミ、練りエサが挙げられる。そしてオキアミボイルや殻付きのエビにはじまり、貝類やコーン、スイカなどの変わり種まで含めると多種多様だ。
またチヌは黄色いエサに興味を示すと言われており、着色したエサの商品ラインアップも多い。
一般的な傾向としてエサ盗りの多い高水温期は硬めのエサがよく、食い渋る冬場や乗っ込み期は柔らかいエサが好まれる。これはチヌが生息している地域性も関係してくる。
年中練りエサが有効なエリアもあるので、基本のオキアミ以外に何種類か準備しておくとよい。夏場はコーンもおすすめ。
マキエは濁りと比重が大事

チヌのマキエは濁りと比重の大きさが求められる。濁りは広範囲にエサがあることを知らせる視覚効果が期待できる。
また濁りによってハリスや仕掛けのパーツがカモフラージュされ、煙幕がチヌの警戒心を解く役割もする。高比重のマキエは底で溜まり、底層にいるチヌを足止めすることができる。
さらに潮が動いてもエサが海底にあることで回遊性のチヌが回ってきてそのエサに留まることもある。
集魚材にムギやカキ殻、コーンやサナギなどチヌが好むとされるものを入れておくとさらに集魚効果が高まる。
チヌは小魚がエサを啄んでいる音を聞くと近寄ってくる習性があるのでマキエの中にアミを入れてあえて小魚を寄せることもある。
約6時間分のマキエの量だが、オキアミ3㎏に対して3㎏の集魚材を2袋。これで40㎝のバッカン1杯分。遠投が必要な釣り場では粘りのある遠投対応の集魚材を入れるとまとまってよく飛ぶようになる。
まず1尾目を釣るために

ズバリどこを狙えばよいか。
それはチヌがエサを求めてやってくるカケアガリや落ち込み、藻場や岩礁回りが有望なポイントだ。
初めのうちは同じ堤防に通って常連がどの場所で竿を出しているのか、実際に釣れた場所がどこなのかを観察して記録しておくとよい。
一般的には堤防のつなぎ目、カーブ、先端の潮通しの良いところなど地形や潮の変化のあるところの実績が高い。

次にチヌ釣りで重要なマキエの打ち方を説明する。
海底に溜まったマキエにツケエが留まるのが理想だが潮が流れているので点ではなく面で捉えるとよい。ベテラン釣り師は仕掛けを作る前にマキエを30杯くらい投入しポイントを作る作業をする。
チヌが寄ってくるまである程度時間がかかっても寄ってくれさえすればエサ盗りが散り気にならなくなる。事前にマキエを打っておくと効率が良い。
ポイント作りを終えたら、マキエを切らさないよう仕掛け投入前に5発ほどマキエを打ち仕掛けを投入してアタリを待つ。
マキエは同じポイントに溜めていき、仕掛けがそのポイントを通るように流すのがコツだ。

ツケエはオキアミが齧られたら練りエサへ替え、飽きられないようローテーションしていく。回収した仕掛けをチェックしてハリスがヨレていたらキンクといってチヌがエサを口に入れた証拠。
次の投入では大きめの目立つエサを付けてやると高確率で食ってくる。
最後に潮回りにも注意しておこう。晩冬~春は産卵のための大潮から中潮に変わるタイミング、いわゆる下り中潮がよく釣れる。
その他、朝、夕のまづめどき、潮止まり前、潮止まりからの動き出しがチャンスだ。
フカセ釣りは考えることがたくさんあって面白い。是非とも身近な堤防で銀色に輝くチヌを手中に収めてもらいたい。