
上潮が滑るとはどういうことなのか
釣りの世界には専門用語がたくさんあります。「上潮(うわじお)が滑る」というのもその一つで、ビギナーにとってはなんのことかさっぱり分かりません。その現象を解説しましょう。

まずは通常(仮定)の状態を見てみましょう。左の図の一番上がそれで、ほかの流れが影響せず、風も沈み瀬もないケースを表しています。この場合は表層ほど速く、底に近づくにつれて遅くなります。仕掛けを投入したままじっとしていると、上層のラインが多く流れに持っていかれ、下層にあるツケエは、遅れて流れることになります。ウキの流れにブレーキをかけないとツケエが先行しやすいのはこのためです。
二番目の図は二つの流れが合流している状態を表しています。①は浅い内湾から流れ出た潮、②は深場の外洋を流れてきた潮で、この二つが合流すると①は上を通り過ぎ、②は潜ります。
三番目も同じ性質の流れが合流しているが、ほとんど同じ方向に向かっています。このときの上層と中層の速さの差は通常より大きく、単にブレーキをかけるだけではラインを張った状態でツケエを先行させるのは難しいです。この状態を上潮が滑ると呼んでいます。
状況を正確に把握して対応を探る
対策を考える前に、上潮が本当に滑っているのかどうかを確認しなければなりません。仕掛けを入れると快調に流れていくという現象だけを見ていたのでは、往々にしてだまされます。
一番分かりやすいのは沈んでいくオキアミを目で観察することです。足元に落としたオキアミは流れに乗りつつ沈んでいきます。
そのときの流れの方向と沈む速度を観察すると、潮の状態がある程度推測できます。

上潮が滑っていると最初は速く流れ、沈むにつれて流れの速度は遅くなります。その速度差は大きく、中層まで沈むとほとんど流れていないような印象を受けるでしょう。グレが上層で食ってくれるのならその潮を釣ればいいですが、ほとんどの場合、アタリは中層以下ででます。つまり、その遅い流れの中でツケエとマキエを同調させないといけないことになるのです。
足元では通常の流れ方をしているのに、沖に出ると上潮が滑る場合があります。二つの流れが合流するのは得てして沖であるケースが多く、その場合は沈むオキアミでは判断できない。そういうときはウキがなじんだ状態で判断しなければなりません。
通常の流れではツケエが先行してハリスが張ると、その荷重がウキにかかってウキの喫水は深くなります。ですが、上潮が滑っているとツケエが先行してハリスが張れていたとしても、引っ張る力は水平方向に働くためウキの傾きが大きくなるだけで喫水は深くなりません。
ウキの収まりが悪く姿勢が安定しない場合は上潮が正常ではないと判断していいでしょう。
まずはツケエを確実に沈めてタナを維持する
上潮が滑っていると判断したら最初にやらなければならないのが、ツケエを確実に沈めてそのタナを維持することです。釣りは魚が食ってくれないことには始まりません。そのためには魚の口元にツケエを届けることが先決になります。いくら軽い仕掛けが好きだからとか、ノーガンで食わせたいと思っても、グレが7mのタナにいればそこまでツケエを沈めなければヒットすることはありません。
そのためには大きめのガン玉が欠かせず、それに対応したウキを選ぶことになります。食い渋っている状況ではなかなか重たい仕掛けでは食ってくれない場合があります。だからといって、仕掛けを軽くするとグレのタナには届かないのだから、重たい仕掛けでどうにかして食わせる努力をしなければならないということです。

上潮が滑る状態はどこまでも続くわけではなく、どこかで解消されるからそこまで流せばいいのではないかという意見もあるでしょう。それなら軽い仕掛けのままで攻めることが可能になります。
本流釣りの場合、はるか沖のカーブ地点を攻めることが珍しくありません。同じ考え方で、滑る潮を攻略するため遠くまで流す方法はあり得なくはないものの、遠くなら必ず通常の流れになるという保証はありません。カーブ地点なら目で見て判断できるのですが、ウキの喫水はそれほど遠くなるととても確認はできません。
同じ理由で、全遊動や全層釣法で攻略しようというのも難しいです。速く沈めることができれば沈め釣りで対応できないことはありません。しかし、速く沈めるために大きいガン玉を使うのなら半遊動と差はなくなってきます。
タナを探るという意味では効果はありますが、滑る潮を攻略するためという目的では適しているとはいえないでしょう。

水中ウキを活用して中層の潮をとらえる
ガン玉を使ってツケエを確実に沈めたら、次は中層の潮をとらえることに努力しなければなりません。上層は速く、中層の流れは遅いのです。その差は大きく、ウキの流れにかなりブレーキをかけなければツケエは先行してくれません。
といって、横流れでブレーキをかければ仕掛けは手前に寄ってくることはこれまで何度も触れています。仕掛けが手前に寄ってくることを計算してマキエも手前に打っておけばそれはカバーできるとしましたが、これだけ速度差があるとそんな生易しい方法で同調させるのは非常に難しいです。
それではどうすればいいのでしょうか?
この際、ツケエ先行は諦めましょう。そうしなければ絶対に釣れないというわけではありません。それよりもツケエのタナを確保し、マキエと同調することを優先した方がヒットする確率は高くなります。
だからといって、なにも手を施さずに流すのでは能がありません。そこで水中ウキの出番となるのです。
水中ウキの機能はいくつかありますが、ここで取り上げたいのは中層の潮に仕掛けを乗せるのと、もう一つは仕掛けの浮き上がりを抑える点にあります。
タナまで沈んでしまえば水中ウキは中層の潮の抵抗を受けて、表層に浮かぶウキの流れにブレーキをかけてくれます。ただし、水中ウキにその機能を発揮させるにはある程度以上のサイズが必要とされます。
水中ウキにはさまざまな形やサイズがあり、往々にして釣り人は小さいものを選びます。魚が食い込んだときの抵抗をできるだけ小さくしたいという「釣り人本能」のなせる技といえます。

ところが、水中ウキが小さいとウキの流れにブレーキをかけるのが難しくなります。特に、上層と中層の速度差が大きいと、かなり水中ウキをサイズアップしないとブレーキをかけることはできません。アタリを取るためのウキ以上のサイズは必要で、それは仕掛けの浮き上がりを抑える機能にしても同様といえます。
普段は小型の水中ウキしか使わない人がこのような状況に遭遇したときは、アタリウキをガン玉で沈めて水中ウキとして使用してみればいいでしょう。体積が大きいとしっかり流れを受け止めて、表層で滑るウキを安定させてくれるはずです。
このとき、水中ウキはできるだけツケエに近いところにセットします。アタリウキから離すとより深いタナの潮を受けるし、その方がアタリウキも安定しやすくなります。ツケエに近いと釣り人の感覚として抵抗があるでしょうから、50〜100㎝としておきましょう。
ハリス分の3mも離すとウキの下の仕掛けが大きな「く」の字状となり、アタリが明確に伝わらず、アワセも効かせづらくなります。やはりウキとツケエの間は直線に近づけたいです。
滑る潮で同調させるのは難しくない
ツケエのタナを確保できれば次はマキエとの同調になります。表層の潮が滑る場合の同調は意外に難しくありません。ウキにブレーキをかけると仕掛けが潮から外れて、その場合は難しくなります。ですが、ブレーキをかけるのは水中ウキに任せるだけにしておくと、仕掛けもマキエも同じ方向に流れます。そういう状態では水深とタイミングを合わせるだけでいいからあまり難しくはありません。

こういう状況ではマキエの定点打ちが基本になります。仕掛けを投入してその上からマキエを被せるという方法では、マキエと仕掛けの沈む速度が違うためまず同調できないと思っていいでしょう(必ず同調しないというわけではありません)。
着水したマキエは滑る潮に乗って表層を速く流れ、中層に達したところでようやくゆっくりと沈んでいきます。一方、仕掛けはガン玉、または水中ウキで強制的に沈められます。さらに、水中ウキがブレーキをかけるので仕掛け全体は表層のマキエほど速くは流れません。
両者の性格はこのように大きく異なるから、計算するのは非常に難しいです。というか、予測は不可能といっていいでしょう。

そこで、マキエを同じところに投入し、同じパターンで沈むという状況を設定します。それに対して、仕掛けの投入点とタイミングをどうすれば同調するかを探っていきます。同調したかどうかは目で見て確かめるわけにはいきません。グレがヒットしたかどうかが同調の証明になります。それはどのような釣り方をしていても変わりはありません。
たとえ完全に同調していたとしても、たまたまそこにグレがいなかった、ツケエが落ちていた、仕掛けのなじみが遅くてタナが浅かったなどなど、グレが食わなかった理由はほかにもあります。ですが、グレが食わなかった以上、同調したとは見なさない。それがグレ釣りの世界と思っていいでしょう。
したがって、ヒットしなくても何度も何度も繰り返さなければなりません。

仕掛けの投入はマキエを入れた何秒後かをカウントします。このとき、マキエと仕掛けの投入点を決めて、時間を少しずつ遅らせていった方が絞り込みやすいです。
考え方としてはマキエの後方から始めた方がいいでしょう。マキエ投入点の1m後方へ10秒後に仕掛けを入れてアタリがなければ20秒、30秒と遅らせていきます。次いで3m後方、5m後方とズラします。この距離と時間のパターンに正解はないので、適当に決めてしまっても良いでしょう。
そして、徐々に絞り込んでいく。アタリが出たときは会心の笑みがこぼれるに違いありません。