口太グレの産卵期は長く2〜6月といわれている。エリアによって時期はずれ込むし、個体による違いもあって、一斉に産卵にかかるわけではないため長期間にわたるわけだ。
とはいえ、産卵の前後は食欲を失うことでは共通していて、しかも春先は水温の変動が激しく、3〜5月が非常に釣りづらい点は広く知られている。そして、再び食いが上向くのが6月だ。
産卵後の体力回復期と水温安定期が重なり、グレは旺盛な食欲を見せる。この時期は数釣りの絶好のチャンスといえる。
なぜ活性が上がるとグレのタナが浅くなるのか

活性が高く食欲が旺盛なグレは、投入されたマキエを先を争って食べようとする。水温が上がると活発になるのはグレだけではなく、他の小魚=エサ盗りもマキエに群がる。
したがって、競争率はさらに高くなる。
エサを食べたければ、少しでも早くマキエの投入地点に辿り着かなければならない。深場にいるよりは浅場にいた方が有利なのはいうまでもない。
その結果、グレの群れはどんどん上ずり、全体にタナが浅くなる。

ただし、臆病なグレにとって、浅ダナに浮くのは非常な勇気を必要とする。なぜなら、浅ダナは身を隠す障害物がなく、大型の回遊魚や鳥に襲われるなど被害に遭う可能性が高くなるからだ。
その恐怖に打ち勝つほどの魅力をエサに対して感じるのは若いグレに限られる。年を取ると警戒心が増し、食欲よりもそちらの方を優先するようになる。
その結果、浅ダナでヒットするのは小・中型がメインになる。良型がそこまで浮いてくることはめったにない。加えて、浅ダナを釣るとイサキやマダイなどが食わないというデメリットもある。
グレ釣りに来たのだからほかの魚に目を向けるのは邪道だという意見もあるが、食べて美味しい魚がヒットして嬉しくない釣り人などいない。
ただし、グレの適水温といわれる18〜22度で安定しても、グレは必ずしも浮いてくるわけではない。潮や天気、波などの条件によっては、竿1本以上の深ダナでしかエサを追わない場合もある。
2〜3ヒロのウキ下でツケエがなくならないときは深場を釣ってみることも忘れてはならない。
なぜ浅ダナで釣ると数釣りが可能になるのか?

理由は二つある。まず、マキエがグレのタナに沈むまで時間がかからない。図のように、オキアミが沈む時間を1m20秒とすれば、3m沈むのに60秒かかることになる。
一方、6m沈むまで待つとすれば120秒かかる。9mなら180秒だ。
その差は1〜2分で、単純計算すれば10分の間に3mのタナなら10回、6mでは5回、9mだと3.3回同調することになる。言い換えれば10分で10尾、5尾、3.3尾という釣果になる。
もちろん、計算通りにはいかないが、それに近い数字のチャンスに遭遇するのは間違いない。

二番目の理由は見えることにある。遠投しない限り浅ダナならマキエもツケエも見える。だから確実に同調できる。
深場で同調させるにはすべて推測するしかない。マキエが沈む速度、仕掛けが沈む速さ、それに両者が流れるスピードを計算して投入地点やタイミングを計らなければならない。
しかも、結果はグレが釣れることでしか証明できない。
それに比べると、サイトフィッシング(見釣り)はそのものズバリだから、推測というまどろこしいことをする必要はない。ヒットする確率は格段に高くなる。
グレの活性が高くても、時合はいつまでも続かない
自然の状況は刻々と変わり、それにともなってグレの行動は変化していく。刻々と変わる状況とは、潮、グレの飽食感、学習、さらに風や波、時間、雲などを指す。
ここで二つの項目について補足説明しておこう。
グレの飽食感

厳冬期で食い渋ったとき、マキエを大量に入れるとグレはすぐ満腹になり、エサを追わなくなる。そのことはよく知られているが、活性が高い時期は意外と無頓着な釣り人が少なくない。
エサ盗りが多ければ少々撒いても問題はないと信じている人が多いようだ。
しかし、いくらエサ盗りがいても大量のマキエが入るとグレは食欲が満たされ、また食べきれなかったマキエが沈むにつれてそれを追ってタナが深くなる可能性が高い。
たっぷり撒かないとエサ盗りに食べ尽くされる可能性が高いのは事実だから、厳冬期のようにチビリチビリと撒くのは適切ではない。
しかし、たっぷり撒いていれば、いずれグレのタナは深くなることを知っておく必要がある。
グレは学習する

ハリに掛かったグレは激しく抵抗する。すぐ近くで暴れるグレの姿を見れば他の魚は驚き、その場から遠ざかる。だが、食欲が強いと再びその場に戻ってマキエを追う。
それを何度も繰り返していると、目の前のエサを食べると危険なことを学習し、同じパターンではエサを食べなくなる。これが学習と呼ばれる魚の行動で、活性が落ちた魚ほどその傾向は強くなる。
活性が高いとその心配は不要と思われるかもしれないが、傾向が強くないだけでまったく皆無というわけではない。
同じパターンで釣れなくなったときの対処方法

いろいろあるが、ここでは最も基本的な対策をいくつか紹介しよう。
図の①は仕掛けとマキエの投入点を次々と変えている。1投ごとに変えてもいいし、数回流したところで変えてもいい。
バリエーション②はマキエを同じところに入れ、仕掛けをいろいろなところに投入している。図ではマキエ投入点と同じラインから仕掛けを流しているが、潮下、潮上から流すパターンもある。
バリエーション③はマキエの打ち方を変えている。①、②は点打ちしているが、これはバラ打ちでしかもタテ打ち、ヨコ打ちと打ち分けている。
④は説明するまでもないだろう。ウキ下を浅くしたり深くしたりしている。単純に浅ダナといっても規定は曖昧で、幅もある。
ここでは一応竿1本以内を浅ダナと定めるが、その範囲内でも1ヒロ半〜3ヒロ半と幅がある。
水面近くまで湧けば1mのウキ下でも食うだろうし、5mまで沈めてようやくアタリが出る場合もあるだろう。

その範囲でどのウキ下を選ぶかは釣り人のセンスということになる。
このセンスはウキ下に限らず、マキエと仕掛けの投入点やマキエの投入方法など上記で紹介した対処法を含めて、魚を釣るための発想すべてを指す。
目の前の状況を観察して変化を敏感に察知し、それにどう対応するかは釣りの原点といってよい。
いうなれば、どんどん変わっていく自然と、それにともなう魚の習性の変化にどう対応するか……それが釣りというものだ。
魚が浅ダナまで浮いてきて釣りやすくなっていようとも、原点が変わることはなく、それを忘れると数釣りは覚束(おぼつか)ない。