
小湊 透
こみなととおる
映画「男はつらいよ」とイシダイ釣りをこよなく愛し、デカバンとの出会いを求めて鹿児島県内各地で竿を出している行動派。さまざまなジャンルの釣りに精通する。

波が砕ける荒磯で剛竿を手にする釣り人。ありがちな磯釣りの絵になるシーンですが、この磯釣りの主役はなんといってもイシダイでしょう。
希少性が高いターゲットに対して一心不乱に竿を振り続ける。これぞ磯釣り浪漫。なかなか夢が見られない現代社会。竿を持っているときぐらいは夢を見たいもの。
大判(デカバン)を狙って、文字通り「夢中」になれるのがイシダイ釣りなのです。
イシダイというターゲット

イシダイは最大で80㎝を超えるまで成長しますが、一般的には70㎝オーバーを「ナナマル」と称して目標に掲げるイシダイ野郎(ちょっと古い表現)が多いと思います。
イシダイの近似種にイシガキダイがいて「石モノ」とひと括りにされることがあります。
オスの老成魚で魚体のシマシマ模様が消えシルバーメタリックとなり口の周りが黒い魚を銀ワサと呼びます。
メチャメチャカッコいいこの銀ワサに対して、目がパッチリした小さな口のゼブラ模様鮮やかな美形のメスの老成魚は本ワサと呼ばれます。
日本記録級のでっかいイシダイは、ほぼこの本ワサであることは周知の事実です。

イシガキダイについても同様で、石垣模様が消えてブラックメタリックの体色に口の周りが白くなったオスの老成魚を口白、豹柄を体にまとったおちょぼ口のメスの老成魚をガキ白と呼びます。

また、レアですがキンダイと呼ばれるイシダイとイシガキの交雑も存在します。
命名は近畿大学で、ここでの研究により人工的な交雑に成功しました。
イシダイの血を強く引くモノとイシガキの血を強く引くモノがいて、どちらも味覚評価は高いようです。
イシダイのキャラクター
さてここからは釣りの対象魚として見たイシダイについて。
科学的な説明は僕には無理なので、釣り人目線で感じたこと、気付いたことを思い付くままに書いていきます(いろいろご意見もございましょうが、あくまでも一釣り人の私的な考察です)。
①賢い魚

まずは学習能力に長けた賢い魚という点。例えば赤貝のエサを使った釣りで、通常複数個付けて投入しますが、きれいに1個だけエサ残すことがあるのです。
これは過去に最後の1個を食べて痛い目にあったことを学習したからの行動と思われます。水族館とかで輪くぐりや玉遊びなどの芸を披露するのも学習能力の高さを示す例です。
軟体動物など、何も考えていない相手に対して考えすぎる一人遊び的な釣りも面白いですが、打てばかえってくる賢い魚に釣り糸を通じて会話しながら考えて考えて展開していく釣りはやはり抜群に面白い。

「場を作る」という言い方をしますが、エサの打ち返しを繰り返すことで魚たちにエサ場を提供して、さまざまな魚たちに遭遇しながら時合を待ち、そしてクライマックスで真打ちのイシダイが登場!
と、あくまでもイメージの世界なのですが、イシダイ釣りはさながら、磯という舞台でイシダイと人間が演じるドラマ。釣り人は演者と演出家。
人間は実際は読心術を心得ているイシダイに遊ばれているだけなのかもしれませんが……。
ほぼほぼ惨敗させられるこのイシダイ釣りは最高の難度ゆえに釣ったときの満足度が非常に高い。
ましてや大型のイシダイを仕留めるには産卵期の魚がテンパっている時を狙うか、シケで警戒心が薄くなり活性が上がるタイミングを狙うか、天文学的に低い確率に期待して数打ちゃ当たる釣法を駆使するしかなさそうです。
②好奇心旺盛な魚
イシダイは動くモノに興味を持つことも知られています。仕掛けの投入は元より、マキエの効果は匂いや味覚と合わせて実は何かが落ちてくることが重要なのかもしれません。
また、イシダイは幼魚の時代はチンポカミとも呼ばれ、海水浴で潜った人が●●●を噛まれると聞いたことがあります。
そんなエピソードからも、仕掛けを積極的に動かす「誘い」は本能に訴えかける理にかなったテクニックだと言えるでしょう。
③潮に律儀な魚

潮の動きはイシダイ釣りでは格言となるほど重要で、潮が動くことにより溶存酸素量や水流などの関係で魚が活性化するようです。
イシダイを釣る時の通称「イシダイ潮」は釣り座に対して突っ掛けるように流れる当て潮。釣り場ごとに最良の潮があり、どの潮周りでどのタイミングかなど釣り場選択において考える要素となります。
④スイッチが入る魚
エサに対する執着心は半端なく捕食スイッチが入った時の食い方は激しいの一言。食わせなくする方が難しいほどで、この状況は一般的には時合と呼ばれます。
イシダイ釣りの場合、この時合が一瞬のことが多く、これに気付くための集中力の維持がこの釣りのカギです。
名人と呼ばれる人は恐ろしいほどの集中力と気迫を持ち「話かけるなオーラ」全開で圧倒されます。もちろん普段は良い人なのですが、それくらい真剣にイシダイと向き合っているのです。
⑤個性を持つ魚
イシダイも人間と同じように右利きと左利きがいるようです。これは魚を絞めた時やイシダイの左右で模様や歯並びが微妙に違うことから分かります。
ということは、釣りのとき、イシダイがエサをくわえた後、どちらに頭を振るかでハリが掛かるか掛からないか(逆バリになるか)がありそうです。
ちなみにイシダイの歯は二枚歯(厳密には四枚歯)でハリがカンヌキの部分にしか掛かりません。アタリがあってもハリ掛かりの確率が高くないのはイシダイ釣りならでは。
その点もこの釣りの面白さに拍車をかけています。
⑥不意を衝く魚

「殺気が伝わると釣れない」と、よく言われています。
置き竿にして今か今かと最後の舞い込みを待ってもなかなか竿は入りませんが、集中力が途切れてよそ見をしたり、用を足したりしていると竿が舞い込んでいたというのはイシダイ釣りあるあるです。
ただし、意図的によそ見をしたり、用を足してもあまり効果はありません。一説によると魚に微弱電波が伝わるのではと言われていますが、いかにもインチキ臭い話です。
⑦ノサリが必要な魚

イシダイ釣りには運気が必要です。
いわゆるノサリ(南九州の一部地域で使われている方言で「天命」や「天から与えられたもの」を意味する)と呼ばれるもので、このノサリがあればイシダイが行く所行く所ついて回ります。
自分の実力以上の何かが発揮され面白いように大型を釣ることができるのです。
ビギナーズラックはまさにこの典型ですが、ノサリがないときは追えば追うほど逃げて行くイシダイ。
このように自分を見失う危険性を秘めた厄介な釣りですが、このギャンブル性がイシダイ釣りの魅力に拍車をかけています。
後半の二点に関しては科学的根拠はまったくありませんが、こういった事象はイシダイ釣りの謎とされる不思議な部分です。この何だか訳のわからないところも イシダイ釣りの魔力。
イシダイ釣りで人生を狂わす人がいるぐらい面白い釣りです。