
猪熊博之
いぐまひろゆき
グレ・チヌのフカセ釣りで次々と新しいスタイルを確立してきた磯釣り界のトーナメンター。主な戦績は第30回G杯争奪全日本がま磯(グレ)選手権優勝、第15回、第16回、第19回釣研WFG優勝、など。がまかつフィールドテスター、釣研インストラクター、東レ・モノフィラメントインストラクター、マルキユーインストラクターとして活躍中。

道糸は多くの釣り人が拘りを持って「自分はこれ!」という愛用品を決めているアイテム。私も高い意識をもって選択しなければならないと常に思っています。
道具選びも腕のうち

よく「道具選びも腕のうち」と言われますが、これは正しいと思います。道具選択の正解・不正解には釣果に直結する要因が含まれているからです。
納得のいく釣果を上げるために、釣り場を選ぶまでの過程も大きな要因の一つですが、与えられた場所で貴重な1尾に出会うチャンスを与えてくれる可能性をアップさせてくれるのが、最適な道具選びと言えます。
さて、道糸を選ぶ基準として挙げられるのは、強度、色(視認性)および性状などで、中でも当然、強度が第一に要求されますが、現在の技術において強度は当然確保されていることを前提にお話しを進めていきましょう。
道糸の性状

道糸の性状は、大きく分けてフロート系とサスペンド系の二つに分かれます。フカセ釣りではこの性状を上手に利用し、そのときどきの海況に応じて、より適した性状の道糸を使うことが理想です。
仕掛けを流すときに、ウキから下の海中にある仕掛けが潮流になじんでいこうとする動きを阻害してしまうと、結果的にツケエが不自然な動きとなってしまいますが、このようになってしまう原因を探っていくと、道糸の存在が大きくクローズアップされてきます。
結論から先にいうと、使用している道糸の性状が、釣りをしているシチュエーションにマッチしていないと、効率良く釣れないということ。
潮流が速い釣り場では、フロート系の道糸が、概ねそれ以外の状況では、サスペンド系の道糸が威力を発揮します。
フロート系を選ぶ状況

本流が通す釣り場に立ち、仕掛けを速い潮流に乗せて流すケースを思い浮かべてください。
このような状況では、常に変化し続ける非常に複雑な流れが発生しているため、仕掛けが乗った沖の潮流と、道糸を置いた竿下の潮流が異なっていることが当然です。
その「仕掛けが乗っている流れ」と「道糸が乗っている流れ」が違えば、道糸が仕掛けを引っ張ってしまいます。

このままでは道糸がウキから下の仕掛けに悪い影響を与えてしまうので、ちゃんと仕掛けがなじんでいきません。
この場合の対処方法は、竿の穂先を上げることで、いったん道糸を空中に持ち上げて修正してやること。できれば、より仕掛けに近い位置まで道糸を持ち上げたいところです。
さてこのとき、道糸が海中に入ってしまっていると、仕掛けはどうなるでしょうか。
道糸を持ち上げようとしようものなら、仕掛けごと引っ張ってしまいます。つまり海中に入るサスペンド系の道糸は不利ということです。
その点、海面上に浮かぶフロート系の道糸であれば、仕掛けを引っ張ることなく道糸を修正することが可能です。
サスペンド系を選ぶ状況

風が吹き抜ける釣り場では、仕掛けがなじんでいこうとする中層から底層の潮の流れと表層・上層の潮の流れがまったく違うということが多々あります。
このようなケースにおいて道糸は、上部の流れに影響されないことが重要。道糸を沈めて使用すれば、仕掛けをなじませることができます。
つまり、サスペンドの道糸を使用して、滑っている上層より下の潮に道糸を置くことで、仕掛けを馴染ませていくべき潮に乗せるということです。

潮流が緩かったり、二枚潮が発生しやすい湾内の釣り場でも有利なのはサスペンド系の道糸で、フカセ釣りが行われる海の様子を思い起こせば、サスペンド系の道糸の出番が多くなるのも当然かと思います。
とはいえフロート系の道糸が有利な状況にも即座に対応できるに越したことはありません。
リールのスプールには、一種類の道糸の号数違いを準備するよりも、同号数で2種類の道糸を用意している方がベターです。
海況にマッチした道糸の修正や処理をしていくことが釣果を上げるカギ。道糸が仕掛けのなじみを妨害する大きな要素である以上、状況に対応できる道糸の準備と選択が必要です。
