船釣りなどでは、古くから魚をマキエとして使用していた。その代表がイワシだ。直接海に撒いたり、カゴに詰めてマキエとして使用する。ブリ釣りからアジ釣りまで幅広く使われている。そんなイワシから抽出されたものだから、釣り人の間でもイワシ(鰯)油は人気が高い。他の魚油と比べても安価なのも理由の一つだ。他にはニシン油やイカ油、雑魚油などが使われている。
イワシの力

和名/マイワシ
分類/ニシン目ニシン科マイワシ属
学名/Sardinops melanostictus

和名/ウルメイワシ
分類/ニシン目ニシン亜目ニシン科ウルメイワシ属
学名/Etrumeus micropus

和名/カタクチイワシ
分類/ニシン目カタクチイワシ科カタクチイワシ属
学名/Engraulis japonica Temminck and Schlegel
「イワシは体に良い」というのは耳にしたことがあるだろう。今回はその健康の話とは全く関係がない釣りエサ用「鰯油」の話だ。とはいえ、前振りもあるし、イワシの凄さを知ってほしいので、イワシの力から書いてみよう。

イワシには表の通りの成分が含まれている。その成分から与えられる効能は、血圧を下げる効果、血液サラサラ効果、脂肪燃焼効果、コレステロール値改善効果、中性脂肪を低下させる効果と至れり尽くせり。さらに、「イワシ油を与えたマウスとパーム油を与えたマウスでは、イワシ油を与えたマウスの方が、早く迷路を脱出できるようになった」という研究結果があるほどで脳の活性化まで面倒を見てくれる始末。イワシの力がどれくらいすごいか分かっていただけただろうか。と、イワシの力についてはこの辺にして、そろそろ本題に入ろう。
魚油

イワシから抽出された油
抽出方法は2種類あり、一つは蒸し煮したカタクチイワシを圧搾して分離し、さらに精製するもの。もう一つは非加熱抽出法で、イワシすり身排液から遠心分離により得られた油だ。一般的なのは前者で、後者は熱による多価不飽和脂肪酸の酸化を防ぎ、EPAやDHAをより良い状態で残す製法だ。これによって精製されたイワシ油は黄色が強く出るようだ。
ただしこれらはあくまでも食品としての製造工程であり、食用ではない工業用が存在する。パッケージにイワシ油と書かれていても、100%のイワシ油ではなかったりする。
釣りへの期待
何が有効なのか
魚に対してイワシ油はなぜ有効となっているのかであるが、想像通り匂いと味だ。魚には嗅覚(きゅうかく)がある。これはフカセ釣りをする人なら誰もが知っているマキエの効果で実証済みだ。そして、味蕾(みらい)と呼ばれる器官で、水中に溶け込んでいるさまざまな成分を利き分けることができる。だからイワシ=食べ物と判断できる魚に対して特に効果が期待できる。
マキエとして使用されることから、多くの魚がイワシ好きということが分かるだろう。そもそも、海の中の生態系ピラミッドでは、イワシは真ん中に位置し、多くの魚の捕食対象となっている。
特にイワシ稚魚(シラス)が多く接岸している場所では、多くの魚が捕食するために集まってくる。シーバスや青物はもちろんだが、マダイや根魚、チヌやグレも同じである。
シラスエリアでグレを狙うと、腹をパンパンにさせた重量のあるグレが釣れ、シラスをたくさん食べていることがよくある。これは稚魚時代からその味を知っているからで、突然魚を食べ始めたわけではない。チヌも同じであり、元日本記録魚がイワシで釣れたことは有名だ。
使い方
魚油を使用する場合、どんな釣りでもドバドバと大量に使うことはない。エサにまぶしたり、マキエに混ぜて使用するのが一般的だ。逆に一度に多く使わないようにうたっているものもある。
その理由の一つとしては、油は広く拡散するからだろう。水に油を垂らすと、一瞬で水面に膜を張るように大きく広がるのを見たことはないだろうか。これを釣り最中の海で行うと、魚油も同様に大きく広がり、ポイントを拡散してしまいかねないからだ。
マキエに使用する場合、マキエ自体に強い集魚力が含まれているので、イワシ効果をプラスする意味で考える。マキエに液体を振りかけてもいいが、できれば水汲みバケツなどに少量の海水を汲み、それにイワシ油を数滴落として拡散させてからマキエと混ぜた方が混ざりやすい。
混ぜる量は、魚は人間の300倍といわれる嗅覚を持っているので、「イワシ油の匂いがする」ほど入れる必要はない。まずは大さじ1杯程度混ぜてみて様子を見るといいだろう。
逆にツケエに振りかけるイワシ油の量は、使用するツケエにかかる程度で大丈夫だ。ツケエ全体に行き渡る必要はなく、ツケエのどこかにイワシ油が塗られているくらいで問題ない。もしオキアミの漬けに使用するのであれば、他の素材と絡めて使用するとまんべんなく添加できる。
使用する量の目安
◯ツケエ

どのくらいでツケエ&マキエに浸透するかという実験データがないのと、現実的に難しいため目安となる使用量はない。料理で例えると、チャーハンを作る際には具材の6〜8%の油を使用するのが目安となっている(鉄のフライパン)。チャーハンは具材を入れて1人前250g程度(茶碗2杯分)だから、必要な油の量は15g(大さじ1杯)ほどとなる。これを加工オキアミのパックに例えると、1パックに、15ccほど投入すれば全体に行き渡ると考えられる。


◯マキエ
以上の計算をマキエに適応すると、40㎝のバッカンに8分目のマキエ(約24L)を作った場合、イワシ油の量はなんと1.5Lとなってしまう。もちろんこれは浸透性などを無視した計算なので当てはまらない。考え方を変えると、でき上がったマキエの中に海水で希釈したイワシ油を投入するのだから、マキエの硬さを損なわない水分量を考慮すると、どれだけ多くても500ml以下に抑えたいところだ。またいきなり濃度を濃くするよりも、失敗しない程度の濃度に抑えておきたい。そう考えると、海水300〜500mlに対して、ツケエと同程度の30g(大さじ2杯)で十分だということが分かる。あくまでもこれは目安を探し出したものなので、現場で調整が必要だ。

保管方法

食べるわけではないのでそれほど神経質になることはないが、油が酸化するので直射日光が当たらない温度の低い場所が望ましい。沈殿物が溜まった場合はボトルを振るとすぐに混ざる。写真は常温(約15℃)、冷蔵(約3℃)、冷凍(約-12℃)で2日間置いたもの。冷蔵状態では少し白味がかってねっとりとした感じがあったが、開封するとすぐに溶け出して常温と同じものになった。冷凍では完全に白くなっており、液状ではなくなっていた。0℃くらいなら大丈夫そうなので、通常の釣りであれば問題なさそうだ。もしクーラーボックスに入れておいて固まっても、すぐに解凍できるので大丈夫だろう。
ルアー釣りに使える!?
ワームに応用
これもエギング同様フォミュラ液として効果が期待できるだろう。ただし、吸収素材ではない通常のワームの場合は、鰯油が取れる度に塗布する必要があるので、口広の専用ボトルなどに鰯油を入れてジグヘッドごと漬けやすいようにしておくと便利そうだ。
エギングに応用
エギングにはフォーミュラがあります。匂いを追加するスプレーが多いので、鰯油も同様に効果が見込めるだろう。ただし全体に塗ると変色する可能性があるので、イカがアタックするエギの腰あたりに塗布するのがおすすめだ。
その他にも、タコ釣りやサビキ釣りなどにも使えるだろう。イワシは多くの魚のベイトとなっているため、イワシの匂いが嫌いな魚はいないと思ってよい。