学習能力と好奇心

イシダイは北海道以南の温帯域に分布し、九州・山口の磯でもおなじみの魚。
ダイバーに寄ってくるほど好奇心が強く、水族館のショーで演技を披露する学習能力の高い魚として人気者となっていますが、釣り物としては非常に希少価値が高く、狡猾な魚として釣り師を翻弄します。
なおかつパワフルなファイトを見せることから「磯の王者」と呼ばれることに異論は出ないでしょう。
幼魚に見られる七本縞の模様が特徴的ですが、この縞は成長するにつれて不鮮明になり、老成した雄は口元を除く体全体が銀色になってきます。
この様子を表す言葉が「銀ワサ」で、全長60㎝を超える銀ワサは見た目の迫力も抜群です。

イシダイの身体的特徴で特筆すべきは、硬いサザエの殻を砕いてしまう硬くて頑丈な歯(鳥のくちばしのようなアゴ)。
この部分にハリは刺さらないので、ジゴクと呼ばれる頬の部分にフッキングを決めなければなりません。
イシダイ釣りの好期とされるのは乗っ込みの春と、水温が下がり始める秋。
夏はエサ盗りが多く、冬は活性が著しく下がるためオフシーズンとするイシダイ師もいますが、確率が下がるだけで年間を通して狙うことができます。
イシダイ釣りの魅力

大型のイシダイは経験値が高く、簡単にはエサを食い込んでくれません。そのためアタリが出ても焦りは禁物。アワセを入れるまでの駆け引きにイシダイ釣りの楽しさが集約されます。
早アワセがNGとなる理由はイシダイが慎重に捕食をするためで、エサを口先でつついている状態となる前アタリの段階ではハリをジゴクに掛けることは困難です。
しっかりと食い込んだ状態の本アタリを待たなければなりません。
穂先に現れるアタリでイシダイの様子を想像しながら、アワセのタイミングを間違えれば全てが台無しとなってしまうというプレッシャーがのし掛かってきます。
ここぞというタイミングで大アワセを決めた瞬間にアドレナリンは全開。良型を手にすれば他では味わえない興奮に包まれることでしょう。
基本的な釣り方

投入した仕掛けを海底に沈めてイシダイがツケエを食ってくるのを待ちます。いわゆるぶっ込み釣りのスタイルで、アタリは穂先の動きを見て判断します。
イシダイ釣りに適したポイントは潮通しが良い場所で、一般的に当て潮になっている釣り座から竿を出します。
足元から水深があれば足元狙いでもOKですが、軽くキャストしてカケアガリや沈み瀬周りで仕掛けが落ち着く場所を探すことからスタートするとよいでしょう。
アタリがなければ狙いどころを変え、エサ盗りでもアタってくるなら、そのポイントを集中的に攻めます。

使用するツケエはウニ類や貝類、甲殻類など。中でも入手しやすく、エキスによる集魚効果を見込め、エサ盗りにも比較的強いガンガゼ(ウニの一種)がスタンダードなエサとなっています。
ツケエにハリを装着するためには、ウニ通しというアイテムを使う必要があります。

マキエによってイシダイの食い気を促すのも効果的で、イシダイ用のマキエとしてウニガラなどが販売されています。
イシダイのアタリは三段引きと表現されます。その意味は最初はコツコツと小さい前アタリがあり、次に押さえ込み、本アタリで竿が海面に突き刺さったらアワセるということ。
前アタリだけで終わってしまうことも多いですが、送り込みというテクニックを身に付けることで違和感なく食い込ませたいです。
イシダイ釣りのタックル

イシダイ竿は剛竿と表現されるように、上物竿に比べると太くて重くて頑丈。しかし、フロントグリップを握ることで重量のバランスが取れるので、取り回しは意外と悪くありません。
一般的に手持ちの釣り(足元狙い)に使用するのは4.8~5m、置き竿の釣り(遠投)に使用するのは5.4mの竿が適しています。
パワーはM、MH、Hがあり、自分の体力に見合ったものを選ぶことで長く愛用できます。
リールはイシダイ用として販売されているカウンター付きの両軸リールを選べば間違いないですが、堅牢性を重視するためレベルワインダーは未搭載なので、扱いには多少の慣れが必要です。
手持ちの釣りにはコンパクトな機種を、遠投の釣りには糸巻き量が多いタイプがおすすめです。

イシダイ仕掛けは中通し仕掛け(本仕掛け)とテンビン仕掛けの二つに分けられます。テンビン仕掛けには捨て糸を使う仕掛けと使わない仕掛け(遠投天秤など)があります。
一般的な使い分けとしては、仕掛けを立たせた状態で使用するカベ狙いには中通し仕掛け、仕掛けをボトムに置く場合はテンビン仕掛け、もしくは根掛かりが少なければ中通し仕掛け、多ければテンビン仕掛けが有利とされます。
一見するとシンプルに見えるイシダイ仕掛けですが、結び直すことなくハリスを交換できるラセンサルカンや、ハリスと道糸の間に長さ1ヒロほどのワイヤーを入れて瀬ズレ対策とするなど、先人たちの工夫が集約されている点は見逃せません。

仕掛け作りに挑戦する上で大きなハードルとなるのが金属製のワイヤーの扱い方ですが、まずはイシダイ釣りの楽しさを知ることが先決なので、市販品の仕掛けで入門すればOKです。
ワイヤーは撚り数やマテリアルでしなやかさや強度に差があり、一般的には鋼線より金線の方が低反発で、撚り数が多くなればなるほどしなやかになります。