フカセ釣りで多用されるナイロンラインの歴史

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釣り糸の歴史を変えたナイロンの登場

戦後強くなったもの、それは女性と靴下──今の若者はそう聞いてもピンとこないだろう。今では信じられないかもしれないが、太平洋戦争が終わるまで女性には選挙権がなかったのである。1945年に衆議院議院選挙法が改正されて国政に参加することが認められたのだ。

選挙権を含めて女性には他の権利も認められ、地位は一挙に向上した。

釣り糸

一方、靴下(ストッキング)は絹、または綿という自然素材が主流であり、どちらも寿命は短かった。そういう背景で登場したのがアメリカ・デュポン社が開発したナイロンだ。

1935年のことだった。従来の天然繊維に対して化学繊維=化繊と呼ばれ、安くて丈夫なところからさまざまな方面で利用されることになる。

靴下もその一つであり、従来の破れやすい絹、綿に比べて丈夫なナイロンにすべての人々は目を見張ったのだ。

1941年、東洋レーヨン(現在の東レ)はこのナイロンを釣り糸に導入した。その後ロングセラーを続ける銀鱗シリーズの第一歩である。

釣り糸の歴史
東洋レーヨンのカタログの一部。読者の中にも当時使っていた方もいるのではないだろうか?

「人テ」とは? ナイロンが生まれる前の主流

昔は釣り糸のことをテグスと呼んでいた。理由はテグス(天蚕糸)サンというガの幼虫から絹糸腺を取り出し、それを酸で処理した糸を使っていたからだ。

しかし、数が少なく貴重な存在で高価でもあった。そこで1940年代に、絹糸を加工した人造テグスが登場した。

強度は本来のテグスである本テより劣るが、なにしろ値段が安く、この「人テ」は大いに人気を集めた。その後は予想がつくように、ナイロンが生まれると取って代わられ、人テは姿を消す。

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誕生当時のラインは今の強度の二分の一

ナイロン製のラインは、それまでの人テに比べるとはるかに強かったものの、現在と比べると強度は二分の一しかなかったという説があった。

二分の一という数字をどうして割り出したのかは不明だが、弱かったのは間違いない。ラインは年々各メーカーが技術力を上げているので、今はもう二分の一では語れないかもしれない。

しかし、その後は各メーカーがしのぎを削り、本家である米国メーカーをも巻き込んで強度アップを図ることになる。

分かりやすく解説すると、ラインは次のような工程を経て商品化される。

  1. 原糸
  2. 紡糸
  3. 延伸
  4. 二次加工
  5. パッケージング

原糸とはナイロンの原料であり、ペレットと呼ばれる。これにはナイロン6、ナイロン66、ナイロン610などがある。それぞれ性質が微妙に異なる。

紡糸の段階では溶けた原糸を小さなノズルから放出する。ノズルの形状や放出速度によってラインの性質はさまざまに変わる。

延伸とは引っ張って伸ばすという意味で、冷やしたラインを伸ばし、また冷やして伸ばすと結晶が整列して強度が上がるという。

二次加工には染色やコーティングがある。

近年、飛躍的に向上したのがこのコーティングで、ナイロンには水を吸うという性質があり、これを防止しなければ強度が極端に落ちてしまうため、吸水性をシャットアウトするコーティングが欠かせない。

釣り糸の歴史

このように、技術上の課題は無数にあり、それらを一つ一つ試してより強いラインを求めて模索したメーカーの努力に頭を下げたい。

彼らのおかげで今の釣り人は細いラインを信頼して、大型とやり取りすることができるようになったのだから。

かつて、ラインの太さは重さで表示されていた

釣り糸の歴史

昔々、我が国では尺貫法が使われていて、釣り道具にはその名残が多く見られることは皆さんよくご存じだと思う。

1尺は30.3㎝であり(以後は簡略するため小数点以下は省略)、18尺の竿は5.4m、16尺では4.8mとなる。近年は5.0mを愛用する釣り人が増えているが、これは5.4mを30㎝短くするだけで軽くなって操作性が増すために開発されたにすぎない。

さて、ラインにもこの尺貫法は生きている。かつて、10号は1分(ぶ)、1号は1厘、そして0.1号を1毛と呼んでいたのだ。

1966年にメートル法が導入されたため尺貫法は使えなくなり、1分を10号、1厘を1号、1毛を0.1号と改められたのだ。

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ちょっと待て、分・厘・毛は重さではないのか? そんな意見をつける人がいたとしたら、あなたの博識ぶりはすごい! その通り。

尺貫法の貫とは3.75㎏であり、その十分の一が斤(きん)、百分の一は匁(もんめ)、千分の一が分になる。オモリ1号は1匁=3.75gであることは知っている人も多いだろう。

では、どうしてラインの太さに重さの単位が用いられたかというと、テグスの時代にさかのぼらなければならない。

テグスは1.5m単位で販売されていて、100本で1匁あればそのテグスは1厘と表示された。1匁は3.75gであり、その百分の一だから0.0375gということになる。

しかし、メートル法のため厘は使えなくなった。そこで、1厘を1号と言い換えた。1分は10号、1毛は0.1号にしたのだった。

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本当のところ、ラインの太さは均一ではない

0.0375gのテグスを1号としたときの直径が0.165㎜。これがその後のラインの基準になる。どこまでも長くできるナイロンでは重さを基準にするのは無意味になる。

このような経緯を経て我が国のラインは太さを基準にすることになったのだが、これには大きな課題が二つあった。

一つは、標準直径である0.165㎜を維持するのが簡単ではないということだ。ラインは溶かしたペレットをノズルから放出し、加熱したり冷ましたりを繰り返しながら伸ばしていく。

したがって、0.001㎜の精度を忠実に守るのは非常に難しい。金属加工のような研磨はできないし、金型に流し込むわけでもないからだ。

釣り糸の歴史

そこで、0.165㎜というのは標準であり、0.185㎜より細く、0.148㎜よりも太ければいいというように許容範囲が認められている。0.185㎜とは1.2号であり、0.148㎜は0.8号の標準直径である。

この検査は製造工程の中で何度も繰り返される。そして、規格から外れたものが一つでも見つかればケース単位で破棄されるという。

国産のラインは実のところ、この検品工程が非常にシビアであり、だからこそ高いクオリティを維持できているのだろう。

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