
尾長グレ狙いのフカセ釣りにおいて、仕掛けを自由に選定できるという条件なら、バラシの原因が大きく二つに分類されます。まず挙げなければならないのが、仕掛けの選定ミスとチェックをおろそかにしたことです。結びの確認を怠ったこともこれに含めてよいでしょう。さらに、仕掛け交換のタイミングを誤った場合もあります。尾長のロクマル狙いなら、なおシビアに考える必要があります。
二番目の原因が操作ミスになります。油断していた、道糸を送りすぎた、強引に引っ張りすぎたと、これにもいろいろな理由があります。ただ、操作に関しては経験値が大きく、ロクマルクラスに遭遇したことのない釣り人にとってこの点は非常にハードルが高いといわざるを得ません。なので、こういう事実があることを頭の片隅にとどめておき、実際に体験したとき、こういうことだったんだと思い出していただけたら今後に役立つはずです。以下、チェックポイントを解説してみましょう。
チェックポイント:仕掛けの選定
ロクマルを対象としているのに細い仕掛けを使うことはありません。ただ、ロクマルを釣るための完璧な仕掛けを用意したとしても、すべて教科書通りにはいかないもの。それが現実です。
例えば、朝まづめのチャンスタイムが過ぎて、もう尾長の大型が期待できないほど太陽が昇った時間帯。諦めて口太用のタックル&仕掛けに交換した途端、それを待っていたかのように大型がアタってくることは珍しくありません。
釣り人が諦めて仕掛けを落とすという場面は他にもあります。本流の中をいくら流しても40㎝クラスの尾長や口太しかアタらないというのもそうです。はっきり言って、ロクマル用のゴツい竿は重たくて取り回しが厄介な代物なのです。釣り人の本音としては、これを使って40㎝クラスなどは釣りたくない。ロクマルが釣れないのならもっと軽い竿に交換したいと常に思っています。で、それを実行すると途端にドン! とくるわけです。
糸を送ってだましだましやり取りすれば、取り込める確率はゼロではありません。しかし、仕掛けを落とした時点で、ロクマルは諦めたも同然と思うべきでしょう。
チェックポイント:仕掛け①ハリス

仕掛けを作ったときは万全でも、時間が経過するといろいろな変化が生じています。根掛かり、藻掛かりをはじめ、魚が釣れたり、さまざまな魚がツケエをかじったりもします。魚の種類によってはハリスや道糸をかじることもあります。
それを細かくチェックし、必要な処置をほどこして万全の状態を維持しておかなければロクマルには対応できません。あの強烈な引きに遭遇したとき、ひとつでも弱点があればそこから切れる。そんなチェックポイントをこれまで折に触れていくつか紹介しましたが、ここで改めて取り上げておきます。
まずはハリスです。魚や根、海藻に近く、またツケエにも近いため最もダメージを受けやすいのがこの部分になります。だからといって、夜釣りを除けばやたら太くするわけにはいかないので、常に最上の状態を保っておかなければなりません。
経年劣化
どんなに品質が高くて価格が高いハリスでも、時間が経過すれば強度はどんどん下がっていきます。特に、太陽光を浴びると紫外線によるダメージを受け、劣化は早く進みます。磯バッグを開けたままにして直射日光に照らされると予想以上に早く強度は落ちるのです。
傷
ツケエがずれると魚はそれと一緒にしばしばハリスもかじります。また、日光を反射して光ると小魚は興味を示してかじる。なにしろ、魚には手がなく、大抵のことは口ですませようとします。歯のない魚でも硬い唇でくわえることによってハリスの表面には傷が入るのです。
ちょっとした根掛かりや藻掛かりでも影響を受けるし、魚を釣り上げたあとそれを処理すればやはり傷は入りやすいです。さらに、エサをハリに刺すときチモトを指先でつまみますが、それを何度も繰り返しているとハリスが白っぽくなってきます。これもダメージになります。
経験の長い釣り人なら仕掛けを巻き取ったときチェックはするものの、指先では分からない傷もあります。
そこで、1〜2時間過ぎたら、なにもなくてもハリスをすべて交換することが必要になります。ロクマルを確実に取り込むためには欠かせないものの一つと言えます。
伸びの維持
こんな書き方をすると一瞬ピンとこない人がいるかもしれません。大型を取り込んだあとは交換すると言えば分かりやすいでしょうか。
道糸やハリスには弾力があり、それは伸びという形で表れます。
ロクマルを釣り上げるためには絶対に必要なものですが、限度いっぱいまで引っ張ると復元力は失われてしまいます。戻るには戻るのですが、完全に元の状態までは復元しません。道糸なら距離が長いから十分戻ります。しかし、短いハリスはそうはいきません。
たとえ交換したばかりでも、ロクマルと死闘を繰り広げたあとはそっくり交換した方が賢明です。根掛かりを引き切った場合も同様と思ってよいでしょう。
チェックポイント:仕掛け②ガン玉

ハリスや道糸にガン玉を打つと、その部分が細くなって切れやすくなります。上の図を見てください。落ち込みで根ズレしている状態を示したものですが、ガン玉をガッチリと固定しているとこれが障害になり、この部分でハリスが切れることが理解できると思います。
しかし、ツケエのタナを確保するのにガン玉は必要不可欠な存在です。磯際に固定する場合も欠かせません。
そこで、力が加わると簡単に落ちてしまう挟み方をします。ガン玉のスリットに少しだけ挟み、軽く締めつけます。そうすれば障害物に当たったときガン玉だけが外れ、ハリスが切れることはありません。もっとも、ハリスに傷が入るのは免れないのですが……。
チェックポイント:仕掛け③チモト補強

尾長の場合、歯ズレ対策をどうするかという問題があります。7号以上の太いハリスを使っていればそれほど問題にはならないのですが、それ以下の細いハリスでは飲み込まれた場合、尾長の鋭い歯でこすられると切られる可能性が高くなります。対策としては3通りの考え方があります。
1番目は仕掛けを張り気味にして早めにアワせ、飲み込まれないようにする方法。
2番目は軸の長いハリを使う方法。こうすればハリスではなくハリが歯に当たり、切られることはなくなるという目論みです。だが、食いが悪くなる可能性があり、また深く飲み込まれると効果はありません。
3番目がケプラートなどを使って補強する方法になります。これは編みつけと呼ばれ、最も傷が入りやすいチモト部分をカバーします。ナイロンチューブを使うガードハリスという商品もあります。強度としてはこれが一番強いのですが、ハリ結びがかなり面倒になります。
自宅で準備しておき、釣り場では道糸に結ぶだけという状態にしておかなければ実用性はほとんどありません。ハリの種類やサイズ、ハリスの太さなどさまざまに取り揃えておく必要があります。
いきなりドン! と来る重み
大物ほどアタリが小さいというのが釣りの世界では常識ですが、ことロクマルとなると例外といってよいでしょう。大抵の場合、ロクマルは向こうアワセで食ってきます。それも並みのパワーではありません。油断してまったく関係ないことを考えていたりするとまず対応できません。コンマ数秒の対応の遅れが命取りとなり、そのまま終わってしまいます。
とはいえ、集中力はそれほど継続できるものではありません。特に、足元を攻めているときは単調になりやすく、その状態で長時間アタリがなければ注意力が散漫になるのも無理はないでしょう。
得てして、時合が訪れるとアタリは連続するケースが多いです。青物が回遊してきたときの状況と似ており、1人にアタると他の釣り人にも続けざまに食ってきます。ということは、最初の一人が犠牲になっている間に残りの釣り人は態勢を整えておけばよいわけで、二人目、三人目は十分準備する余裕があります。それだけ取り込める確率は高くなるということです。
ドラグで道糸を出す

グレ釣りにドラグを使う人は非常に少ないという現状ですが、ロクマルの最初の逸走を、これでかわすという方法がないわけでもありません。緩く設定しておけばいきなり来られてもとりあえずは対応できます。ドラグ機能を搭載したレバーブレーキリールも機種が増えており、選択肢のひとつとして十分考えられます。
ただ、取り込みの後半、足元に寄せてからは絶対に道糸を出してはいけない場面があります。そのとき勝手に出てくれるのは困ります。
それを防ぐには、やり取りの途中でドラグをいっぱいに締めておかなくてはなりません。ロクマルに対応している最中にそんな余裕があるかどうか……。
魚が弱ってきたら余裕ができるのですが、果たして釣り人の心理面で余裕ができるかどうか。これは実際に直面してみないと分かりません。頭の中が真っ白の状態では、なにもできない可能性があります。
走る方向は魚次第
ロクマルがいきなり食ってきても態勢が十分整っていたとしましょう。次に問題となるのが魚が走る方向です。沖に走ってくれれば道糸を送ってやり取りできる余裕が生まれます。
しかし、磯に沿って横に走られるとどうにもなりません。根ズレで切られるのは時間の問題ということになります。
グレのみならず、魚は引っ張られるとその反対方向へ向かうといいます。したがって、右手に沈み瀬があってそっちへ走ってほしくないときは、竿を右に倒して引っ張ればよく、そうすると魚は左へ向かうのだそうです。
しかし、そんな操作が通用するのは中型までに限られます。ハリ掛かり直後のロクマルはどの方向に引っ張ろうということを聞きません。というか、引っ張ることそのものが不可能です。夜釣りで3号竿にハリス8〜10号を使っていたとしても、ひたすら耐えるしかありません。
魚の方がパワーが勝っていると次第に竿は引き倒されていきます。その場合はレバーブレーキを使って竿を起こすのですが、魚の動きをコントロールするどころではありません。
したがって、尾長がどの方向に走るかは運次第ということになります。対応や操作の枠の外にあり、釣り人のミスとは呼べません。このように考えてくると、本流の中で食わせるのは釣り人にとって非常に有利だということが分かってきます。男女群島の瀬戸に面した釣り場がどれだけ素晴らしいか改めて思い知らされます。
竿の弾力を生かせる角度

ハリスやハリの強度をはるかに超えたパワーでロクマルが走っても耐えられるのは、竿の弾力と道糸&ハリスの伸びが大きく貢献しているからにほかなりません。ここでは、弾力を100%近く生かすための竿の角度に触れてみましょう。
昔の釣り人の中には、魚が掛かったらなにがなんでも竿を立てろという人が多かったです。ですが、それでは竿の弾力を生かすのは難しいです。考えるまでもなく、足元にいる魚の引きに耐えるのに竿を立てていては弾力を生かせません。魚が引く方向に対して90度の角度を保たなければなりません(実際は50〜70度が望ましいのですが)。そのため、魚の位置に応じて竿の角度はどんどん変えていく必要があります。
確かに、魚が沖にいれば竿を精いっぱい立てた方が弾力は生かせます。竿尻を魚に向けるという名手もいるほどです。
だが、魚が足元に近づいてくれば、道糸との角度90度を保つには竿を倒さなければなりません。竿を真上に立てていたのでは10度程度しかなく、これでは弾力を生かせません。カーボンロッドが開発された当初はこの状態にすると穂先が折れ、クレームが相次いだものです。使う側にも問題があったのですが、メーカーはすぐさま対応し、この種のトラブルは少なくなりました。余裕があれば足場を移動させ、横から引っ張ることができればよいのですが、これもロクマル相手では難しい面があります。
先手を取るために

ロクマルは向こうアワセで食ってきます。そのため、アタリもアワセもないのが現状ですが、突っ込まれてから態勢を整えるよりも、それ以前に構えていた方がはるかに有利になります。魚に主導権を取られると取り込みが難しいのはいうまでもありません。
では、ロクマルのアタリを取ることは可能なのでしょうか? 尾長歴の長いベテランの中には、不可能ではないという人もいます。彼らの話を総合すると、じっと待つだけではウキは動かないことは確かです。
なんらかのアクションをさせ、それが復元するときの速度が通常よりも遅ければ、それがロクマルの前アタリになるといいます。例えば、仕掛けを引く。するとウキは沈む。その沈んだウキが再び浮いてくるとき、なにもない状態よりも遅ければ尾長がくわえている可能性が高いというのです。
傾けたウキが戻るときのスピードでもアタリが分かるといいますが、これはさらに難しいです。ウキを沈めてしまえばわずかな変化で前アタリを取るのは不可能になります。ただ、仕掛けを張っていれば飲み込まれる確率は低くなります。また歯ズレ対策にもなります。
ビッグサイズのタモ枠を
ロクマルをターゲットとしているのに30〜40㎝のタモ枠を持参する人はいないでしょう。魚は弱っているとはいえ、タモ枠が小さくてタモ入れがスムーズにいかず、それが原因でバラした人もまた多いことを知っておいてほしいのです。通常、やり取り時は魚と竿との間には直線方向の力しか、かかりません。
しかし、魚を掬おうとすると、タモ枠がそれ以外の方向に力を加える可能性があります。スムーズに魚をタモ網に誘い込むことができればなにも問題はありません。
ですが、タモ網がハリスや魚に触れると力の角度が変わってハリが外れたり、ハリスがタモ枠に引っ掛かったりする恐れがあります。
それを避けるには、50㎝以上の大きなタモ枠を使うことをおすすめします。それも、できればワンピースがよいです。荷物がかさばるものの、四つ折りに比べるとトラブルは非常に少ないです。タモの柄も長い方がよいでしょう。