
誤解を恐れずに言うと、ウキフカセ釣りではそれほどキャスティングの正確さは要求されないことが多いです。少し遠めに投げて巻いてくれば距離を合わせることができますし、ついでに仕掛けも張れます。しかも、勝負をかけるのはその先、仕掛けが流れていってマキエと同調してからです。
そのため、仕掛けよりもマキエのキャスティングの方に重点を置いているというのが現状です。しかし、近年になってその状況は少しずつ変わってきています。理由は三つあります。
- マキエを先打ちして同調する機会が増え、仕掛けを正確にキャストする必要が生じた。
- 潮目や引かれ潮、潮のカベなどポイントをタイトに攻める機会が多くなった。
- エサ盗り対策のため、ツケエの着水地点をシビアに考えるようになった。
以上のような理由で、釣り人の意識は大きく変わりつつあります。
それにともなって、道糸や竿もキャスティング性能を高めるべく技術を進化させています。道糸は滑りが良くなり、巻きグセが減っています。ガイドはキズつきにくくなり、穂先のブレもすぐに解消されて、軽い仕掛けでもロッドを軽く振るだけで遠くまで飛ぶのが現在の最新モデルです。しかし、巻き方が悪ければそれがすべて台無しになるのです。
現在の道糸は150mが主流
道糸の巻き方に入る前に、現在販売されている道糸の長さについて考察してみましょう。
道糸の販売単位はいつの間にか150mが主流になってしまいました。100m、または50m連結という販売方法が長く続いていましたが、やがて150mが現れ、そして200mも珍しくなくなってきました。その理由はなんでしょう?
まず考えられるのが、広いエリアを探ることが多くなったせいだと思われます。足元〜中間距離はエサ盗りが多く、同時に良型が簡単には食ってくれなくなったため、より遠くを攻めるようになっているのです。

もう一つの理由は細い道糸を使うようになったためではないでしょうか。グレに食わせるにはより細い道糸の方が有利なことはみんな知っています。ですが、細くなれば強度が心配になります。特に、ナイロンは水を吸うと突然弱くなります。以前に比べて強くなっているとはいえ、2時間も3時間も釣りを続けていると吸水による強度ダウンが心配になります。
そこで、10〜20m切り捨てて万全を期す。切られて後悔するよりも予防をしておきたいのです。1日の釣りの中でそれを2回すれば20〜40m短くなります。
100mの道糸では心もとないことが分かるでしょう。
現状として100m単位で販売されている道糸は堤防釣り、またはチヌのカセ釣りや落とし込み釣りでよく用いられているといってよいでしょう。
リールに表示されている道糸は太いことが多い

かつて、道糸の販売単位はリールに合わせることが多かったです。スプールにピッタリ巻けるようにしたからです。
しかし、釣り人の要求はますます多様化しています。1.5号、2号、2.5号と選択肢は多く、好みの太さを使うことができます。だが、リールはそういうわけにはいきません。1台でより多くの釣り人の要求に応えなければならないのです。
そのため、巻糸量表示は2〜3号がメインであり、1.5〜1.75号は表示されていません。
スプールにはいっぱいに巻いておかないと道糸とスプールエッジの間に摩擦が生じ、飛距離が伸びません。ブレーキがかかるためコントロールも狂ってきます。そこで、スプールには下巻きが必要になってくるのです。
スプールの下巻きは何m巻けばいいか

上の図のように、150mの道糸を巻いたときスプールいっぱいになるように調整するのが下巻きの役目となります。したがって、海水を吸わない素材であればなんでも構いません。釣り人によってはビニールテープや布製のガムテープを下巻き代わりに使う人もいます。
ところが、この素材には大きな問題があります。どれだけ巻けば道糸がスプールいっぱいになるかが分からない点です。これだけ巻けばちょうどいいということが経験上分かっていれば問題ないのですが、そうでないと巻き足りない、余って切り捨てるという事態になりかねません。
あと少しだからと多めに巻いてしまうと釣り場でのトラブルの元になり、大幅に切り捨てることになります。
それを考えると安価な道糸を使った方が賢明でしょう。使用済みの古いものでもいいではないかと思うかもしれませんが、塩気が残っている可能性があります。
せっかく新しい道糸を巻くのなら万全の態勢で臨みたいです。これも細い道糸の能力を存分に活用するための手続きの一つなのです。では、その新しい道糸をスプールいっぱいに巻くためには、下巻きをどれだけ巻けばいいでしょう?
下巻きの長さを計算して割り出す
計算して割り出すというと「エーッ!」というブーイングが聞こえてきそうですが、できるだけ簡略化して解説するのでしばらく我慢して読み進めてください。
最初にするのはスプールの容量の計算。例えば標準巻糸量は2号170mというリールの場合。2号であれば市販の道糸をそのまま巻くだけでスプールいっぱいになります。しかし、1.5号を巻きたいとします。すると下巻きが必要になります。

2号の標準直径は0.24㎜。したがって、0.24×3.14(円周率)=0.7536平方㎜が2号ラインの面積で、それに17000㎜(170m)を掛けるとスプールの容量になるのですが、この計算方法は面倒です。1.5号の道糸、下巻き用の3号の道糸にも円周率を掛けるのだから、この際、省略してしまいましょう。また、単位合わせのためにミリで表示するのも略してメートルで統一してみましょう。
するとスプール容量は0.24×170=40.8という数字になります。分かりやすく解説するため、この数字にC(キャパシティ)という単位をつけておきます。
一方、1.5号の標準直径は0.21㎜。これを170m巻くのだから35.7C。40.8Cのうち35.7Cを1.5号が占めることになります。つまり全体の容量の87.5%です。そして、残り12.5%を下巻きで埋めればいいことになります。40.8Cの12.5%は5.1C。下巻きに3号を使うとすれば5.1を0.29で割ればいい。答は17.5mでとなります。
このケースでは2号を170m巻けるスプールに1.5mを巻いたため下巻きは少なかったが、同じ計算式はどんなリールにもどんな太さの下巻き糸にも通用します。
道糸の長さをどうやって測るか

前記の例では17.5mという数字だったから竿3本分という目安で測ることはできました。ですが、これが50mだったらどうすればいいのでしょう?
一般的にはギア比による巻き取り長さから割り出します。6.6でハンドルを一回転するリールならば98㎝巻き取ることになる。これはスプールにどれだけ道糸が巻き取られているかによって誤差が出るものの、大まかな目安にはなります。つまり、51回巻けばほぼ50mになる計算です。
ただ、この計測方法は途中で分からなくなる恐れがあります。なにかに気を取られて何回巻いたのか忘れてしまうのです。
その点、ラインカウンターという機器を使うとその恐れはなくなり、正確度も増します。ルアー釣りでは150mの道糸を半分に切ってリールに巻くということが当たり前のように行われており、そういう場合に活躍しているようです。
下巻きの長さを正確に測るもう一つの方法
続いて、計算ではなくて実際に巻いて下巻きの長さを正確に決める方法を紹介しましょう。
大まかに説明しておくと、一旦リールに巻いた道糸と下巻き糸を空スプールに移し、再びリールに巻きつける。そのため、空のスプールと、そのスプールに巻き戻すための道具が必要になります。
最初に新しい道糸1.5号をリールに巻く。スプールの容量いっぱいにはならないから当然スペースができます。そこで、その上から下巻き糸3号を巻いていきます。そして、スプールいっぱいになったところで切ります。

次に、下巻き糸を空のスプールに巻き戻します。このとき、高速リサイクラーのような道具があると便利ですが、電動工具のドリルでも代用はできます。チャックにボルトを挟み、ナットとワッシャーで空のスプールを固定すればよいのです。
下糸を巻き取ったら次に1.5号を別の空スプールに巻き取ります。すべて巻き取ったら今度は下巻き糸をリールに巻く。そしてそれに連結して1.5号巻きます。それできっちりとスプールいっぱいに納まるはずです。合計3回巻くことになり面倒に感じるかもしれませんが、実際に巻いて導き出した数字であり、計算する必要はないです。
ただし、この方法で巻くときの注意点が二つあります。一つは、最初に下糸を巻くときスプールいっぱいにしないことです。
急いでいたりすると、テンションをかけないままで急速に巻くことも珍しいケースではありません。そんなことをすればラインがリールのスプールに納まりきれず、ひどいライントラブルに繋がりかねません。
もう一点はヨリをかけないことです。リールに巻いた道糸を空スプールに巻き戻すとき、ドリルとリールの軸を90度にするとヨリがかかります。リールが回転しないからこちらの方が楽で、慣れないとついやってしまいがちです。面倒でも二つの軸を平行に配置させ、リールのスプールも回転させておくことです。
仕上げはフッ素樹脂でコーティング
歯に皮膜を作ると虫歯になりにくいことで知られているフッ素ですが、これを道糸にスプレーしてコーティングするとさまざまな効果があります。
なによりも嬉しいのは表面の塗膜を強化して吸水性を抑制してくれる点です。現在の道糸はコーティング技術が飛躍的に進化して吸水性が抑えられているものの、使っているうちに剥げてきて水を吸ってしまいます。しかし、フッ素樹脂を新たにコーティングすると水をシャットアウトし、本来の強度を長時間持続できるようになります。リールに巻いた状態でスプレーするだけでいいから非常に手軽でもあります。さらに、滑り性がアップして飛距離がさらに伸びます。新しく巻き替えたばかりの道糸だとあまり実感できないですが、何度か使った道糸にスプレーすると見違えるほど飛ぶようになります。また、滑りが良くなると絡み防止にもなり、絡みを解くための時間を節約できるし、汚れやキズもある程度防止します。細い道糸を使う時代にはぜひ備えておきたいグッズです。