和歌山県は魅力ある磯が多くグレ釣りの盛んなエリアだ。他県に比べ人口に占める釣り師の比率が高い。磯釣り師なら未経験の地で思う存分自分の釣りを試してみたいと夢見るものだ。
鹿児島県在住の浜市フィールドテスター住田雄司さんもその一人。念願叶って、西牟婁郡すさみ町見老津の陸の黒島の大曲に瀬上がりすることができた。この磯は、広くて足場も良い。前方には沖の黒島が鎮座していて眺めも良い釣り場である。

釣りは組み立てが肝心
強風が吹く予報が出ていたため前日にマキエを作っておいた浜市スタッフの藤川哲朗さんは、
「今年はグレの食い始めが早く、3月に入ると状況は厳しくなってくる予想です。今は釣れていますから心配はしなくていいですよ」と不敵な笑みを浮かべる。
午前10時くらいから上げ潮に変わる。そして潮は西方向へ流れが速くなり、風は西から東へと強まる。
つまり、風と潮が逆向きという現象が3時間後には現実になる。
藤川さんはその時合までに最適な仕掛けを完成させておくことに主眼を置いた。
藤川哲朗さんのタックル ◎ロッド:がまかつ/がま磯 アルマ 1.5号 5.3m ◎リール:ダイワ/インパルトLBD 2500SH ◎道糸:1.75号 ◎ハリス:1.75号 ◎ウキ:スタジオ泉州/オリジナル 哲ウキ LLサイズ ◎ハリ:がまかつ/寒グレ 6号、7号


初場所での第一手
一方、住田さんは瀬の西側でタックルを組む。目の前にある大きな沈み瀬の延長上にある潮目を狙うのがセオリーだが、仕掛けがうまく入らない。さらにサラシから押され当ててくる潮にラインを取られてしまう。遠投しても潮があまり動かないため水道を攻めた。いずれも釣れたのは良型のサンノジだ。
「うーん深く入り過ぎているのでしょうね。ウキの浮力を上げてみます」
PEラインを使った全遊動釣法で突破口を探る。
住田雄司さんのタックル ◎ロッド:ダイワ/トーナメント ISO AGS 競技1.25-51 SMT・R ◎リール:ダイワ/トーナメント ISO競技LBD ◎道糸:ダイワ/PE磯デュラセンサー×8SS+SI2 1.75号 ◎ショックリーダー:ナイロン2号3ピロ ◎中ハリス:フロロカーボン2号4ピロ ◎ハリス:サンライン/トルネード松田スペシャル ブラックストリーム1.5号、1.7号 ◎ウキ:釣研/フローズ01・0・G7、ツインフォース上ウキB下ウキG2 スタジオ泉州/オリジナル 哲ウキ LLサイズ ◎ハリ:がまかつ/ナノグレ3号、7号 寒グレ6号

和歌山の渡船は、ほかほかの温かい弁当を磯まで届けてくれる。林渡船の清竜丸が近づいてきた。西からのウネリが出てきたため沖の磯の釣り人を瀬替わりさせこの大曲に乗せた。
ちょうどそのタイミングで藤川さんの竿が、大きく曲がった。
この1尾は狙い通り、掛けるべくして掛けたグレなのだ。

名手藤川の必釣ストーリー
ではここから初アタリまでの藤川さんの釣りの一部始終を解説しよう。
まず1.75号のハリスを4ヒロ取り、ウキの浮力は0号。遊動幅2ヒロというオーソドックスな半遊動仕掛けからスタート。ツケエはオキアミ生と海水に浸したオキアミボイルを交互に使う。
マキエは足元のサラシに打ち、沖へ払い出す潮の流れに乗せた。
この流しではエサが残ったため固定ウキ仕掛けに替えた。ウキ下2ヒロのままだ。
今度はエサが取られていたため、1ヒロ半までウキ下を短くした。
この状況から察するとエサが取られるのは1ヒロ半より浅い。
つまり、捕食するタナを通過すればエサは残りアタリが出ない。まだ食いは渋いため、がまかつ/寒グレ7号から6号へと替えた。

ボラに熱視線
藤川さんは足元のサラシに寄ってきたボラが深いタナでエサを追っていたのを見逃さなかった。やがて沖の潮目にボラが浮いているのを確認。そろそろグレも浮いてくるはずだとウキをG2に替え、遊動仕掛けにガン玉G2を打ち、ハリを7号に戻した。
ガン玉を利用して仕掛けを入れようとしたがグレはその違和感を嫌う。
ウキをG2の固定にし、ガン玉を外した。エサが取られたのは1ヒロ半と浅かったが、グレが横移動しているためウキがシモっていかないことが分かった。ボラも浮いてきていることから1ヒロ半より深く入れることはない。
エサを吸って吐いてを繰り返すグレになんとかハリを食い込ませようと6号に替えた。
ここで回収した仕掛けを見るとオキアミの頭だけ取られ、胴が残った。

ウキの抵抗でしっかり掛ける
少しでもエサがかじられているのが分かったら、タナはまだ浅いと考えてよい。
そこで、ウキ下を一気に1ヒロまで短くした。
このタナで食わせるためにはウキの抵抗を利用するのが藤川流。浮力Bのウキに替えて2投目、それまでアタリすらなかったグレが一気に反転した。
「タナが合えば太いハリスであろうと関係ありません。ハリを吐き出そうとしても7号バリだと口に引っ掛かるので反転してしまうんです」
最終的にはウキ下を30㎝まで縮めるつもりだったという。
時合になるまでの間、グレの捕食レンジと反転させるキッカケを探っていたのである。

なぜ同調を考えなくていいのか
「郷に入れば郷に従えですね」と住田さんもLLサイズ18gのウキを使うことにした。
藤川さんからアドバイスされるままマキエをサラシに打って沈み瀬のある浅いポイントに仕掛けを投入。すぐに道糸を一旦ピンと張る。道糸がシモリ始めたら少しずつラインを緩めて潮に仕掛けをなじませる。立つ位置はサラシの風上が鉄則だ。
「ラインを置く位置を間違えばマキエの溜まる場所から離れますよ」と、藤川さんは仕掛け投入後に道糸をどこに置くかに集中すべきことを説いた。
マキエに含まれるオキアミボイルは比重が小さく、潮に乗り潮がぶつかる場所に溜まるので、そこをピンポイントに狙えばよい。ただし、ラインを出し過ぎるとサラシに取られ仕掛けがポイントからズレてしまう。
マキエワークはサラシに打ち込むだけ。ウキの近くにマキエを撒いても、その効果は遥か沖。
すべてが初めてのことで熱心に聞き入る住田さん。
足元のサラシにPEラインが取られないようラインを張って待つと、ようやく初アタリが出た。
「ラインの置き方がうまくいったなと思ったら案の定ラインがスーっと伸びていって竿引きのアタリでした。この釣り方は面白いです」

登竜門を突破!
ボイルのオキアミを打ち続けている限りグレは浮いてきていると考える。
エサを食べるというのは魚の本能だが、警戒心もあるため捕食のタナには神経を使う。20㎝刻みで探るのもアリだ。
そして住田さんが2尾目のグレのアタリを捉えた瞬間、
「竿は横に倒して」と藤川さんのアドバイス。

竿を立てればグレは深く突っ込もうとするから沈み瀬に当たってラインブレイクの原因になる。慌てずラインを横に引っ張っていれば自ずと浮いてくる。ベテラン磯釣り師が、改めて磯釣りの奥深さに覚醒した瞬間だった。思い切って自分の釣りを捨て、現地のやり方でグレを仕留められたのは大きな自信となったに違いない。

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